ベル＆ロス BR01-97 オーバーホール・外装仕上げ

担当者コメントと修理のポイント

今回ご紹介する修理事例はベル＆ロス BR01-97のオーバーホールです（画像1）。 時計というよりも“計器”という表現が合うBRシリーズ。雑誌などで目にされた方も多いと思いますが、実物を前にしてみるとかなりの迫力を持つモデルです。最大の特徴といえる飛行機の計器をモチーフとしたケースデザインは視認性にも寄与しています。

こちらのベル＆ロス BR01-97は渋谷本店にて買取りし、宝石広場 時計修理センター渋谷が販売前のメンテナンスの依頼を受けた一本です。2009年11月のギャランティーが付属していますので販売から長期間経過していますが、外観は経過年数を考慮すると汚れが少なくリューズ操作にも違和感がありませんでした。そのため買取前に他店やメーカーでメンテナンスをしているか、ご使用頻度が低かった可能性を考慮しつつ作業を進めました。

特殊なモデルを除いてBR01シリーズはベゼルと、裏蓋と一体となったケースの2ピース構造です。一般的なケースはベゼル+ケース本体+裏蓋の3ピース構造、またはベゼルと一体のケース本体+裏蓋の2ピース構造ですので裏蓋を開けるだけでムーブメントを見られます。ですがベゼル+裏蓋一体のケースの2ピース構造モデルはベゼルを取っただけではムーブメントは見ることができず、リューズ・巻き芯を外すことでようやくムーブメントを取り出せます。さらにBR01シリーズは文字盤に取り付けられたネジでムーブメントをケースに固定しているため、これらも外す必要があります。
BR01シリーズのケース特徴をもう少し詳しく説明します。多くのムーブメントはリューズ・巻真をオシドリというパーツを押すことで引っ掛かりを解除して抜き取ることができます。またベゼル+裏蓋一体のケースの2ピースケースの腕時計には巻真が分割する構造になっているジョイント式が採用されています。ところがBR01はムーブメントが裏蓋と一体になったケースで覆われているためオシドリを押すことができず、2ピースケースながら巻き真は一般的な一体物を採用しています。裏蓋にあるネジ穴はケースを貫通していて、開いた穴からオシドリを押すことで抜き取ることができます（画像2）。ちなみにジョイント式は細い巻真（約0.7mm～1.2ｍｍ）に嵌め込む凹凸があり抵抗で留まっているため何度も抜き差しすると摩耗や金属疲労で固定力が弱くなってしまいますが、BR01は一体物の巻き真なので強度を犠牲にすることはありません。
デザイン上の特徴にもなっている文字盤の四つのネジはケース本体にまで達していてムーブメントを固定する役割があります（画像3）。2ピース構造におけるムーブメントの固定方法は各社様々で極厚のパッキンで囲ってケースとの隙間を無くしているモデルや、ベゼルに隠れて見えない箇所の文字盤を一部欠けさせてケースにネジ留めしているモデル、ケースとムーブメントの嵌めあいをキツくしてベゼルで抑えるモデルなどがあります。

搭載しているムーブメントはCal.2892にパワーリザーブインジケータを追加したETA Cal.2897です（画像4）。ムーブメントは全体的に油の劣化・減少していましたので、ワインダーなどで動かしていたのかもしれません。分解しつつパーツが再利用できるか確認していくと切替車が少しだけ摩耗していました。外観の確認と一緒にリューズ操作を行った際には気にならない程度でしたが、ご購入いただいた方が安心して長くお使いいただける様に交換することとしました。
その他は全て分解を終えてもパーツ交換の必要はなく丁寧に洗浄・組立て・注油を進めると調子よく動作するようになりましたので、外装仕上げの後に店頭へ並ぶ予定です。

ベル＆ロス BR01-97をお客様からお預かりした場合はオーバーホール基本料金が28,000円、オーバーホールと一緒に外装仕上げをご希望の場合はセット料金で12,000円です。
配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。

ワインダーで保管していると腕につけていなくとも時計は動き続けます。外観は汚れていなくとも内部の油は劣化・減少していき、そうでなくとも長期間メンテナンスせずに放置してしまうと油は経年により劣化します。油が劣化・枯渇した状態で動かすと歯車や軸に大きな負担かかかります。今回のベル＆ロス BR01-97の様に摩耗の初期段階で気が付ければ良いのですが、そのまま動かし続けてしまうと摩耗粉が全体に散ることで一気に摩耗が進み、止まった時には大量のパーツ交換が必要になることもあります。
なにかおかしいなと思いあたる場合はぜひ当店にご依頼ください。