ロレックス チェリーニ オーバーホール・焼け取り 公開日:2021/09/07 最終更新日:2022/01/17 腕時計修理内容 ブランド名 ロレックス モデル名 チェリーニ 型番 Ref.3768 修理内容 オーバーホール・焼け取り 修理料金 ¥37,000-(税込) ※事例公開時の価格となります。 修理時間 お見積り2週間、ご返答を頂きましてから作業5週間 症状タグ 止まる油切れ部品劣化/破損 修理後のお時計です。 お預かり時ケースは変色していました。 ムーブメントはCal.1600 ヒゲゼンマイが変形していました 担当者コメントと修理のポイント 他店でご購入された時計の持続時間が短く、精度も極端に遅れてしまうと渋谷店へご来店いただきました。 時計はロレックスのチェリーニ Ref.3768です(画像1)。 手巻き式のモデルで持続時間が短いというと原因は長期間メンテナンスをしていないことによる油切れやパーツの摩耗が多いです。振動や衝撃によりパーツが外れたり破損して歯車に引っかかっていることもありますが、その場合は遅れというよりは不動となることがほとんどです。 お預かりしたときにはケースが変色をしていました(画像2)。 本来、金が変色することはありません。ではなぜ変色するかというとケースに使われるのは24金(純金)ではなく、ある程度の固さや色合いを出すために金以外の金属を配合した18金が使われ、その金属が皮脂・汗・空気などに触れることで酸化しているためです。ご使用後に清潔に保つことで変色をある程度は防ぐことができます。 ムーブメントはCal.1600です(画像3)。時計を横から点検すると原因がわかりました(画像4)。 予想通り内部の油は全くない状態でしたが、それ以上に大きな原因としてヒゲゼンマイが大きく傾いていました。テンプに取り付けられているヒゲゼンマイは天輪と平行でなくてはいけませんが、天輪のアミダ部分と接触するほど傾いていました。 機械式時計はゼンマイを巻いた力が輪列を伝わり一気に解放されないように脱進機構が一定間隔で停止と停止解除を規則正しく繰り返すことで徐々に力を開放してテンポ(精度)を決めています。その脱進機構の中でも精度を一定に保つ重要なパーツの一つがヒゲゼンマイです。 ヒゲゼンマイは天輪の回転運動を一定間隔にするために正確な長さと形状で作られ片側をテンプ軸(天真)とつながるヒゲ玉に、片側をテンプ受けにつながるヒゲ持ちに固定されています。 天輪が回転運動をすると片側がテンプ受けに固定されているためヒゲゼンマイは収縮します。ヒゲゼンマイが傾いていたり中心がズレていると収縮するテンポを一定に保つことができなくなってしまい正確な精度になりません。結果として時間が合わない時計になってしまいます。 通常、ご使用しているだけで画像4の様にヒゲゼンマイが斜めになることはありませので、お預かりしたチェリーニは過去にヒゲゼンマイの作業ミスがあったようです。ヒゲゼンマイは時計の中でも特に繊細なパーツで厚みは100分の3程度と髪の毛よりも薄く作られています。わずかな平行・中心の狂いが精度の正確さに大きく影響してしまうため作業は慎重に行わなければなりません。 注意深く何度も観察しながら変形個所を特定し、できる限り少ない回数で調整しました。ヒゲゼンマイの修正作業は精度に大きく影響する技術者としての腕が試されている場面です。分解組立作業とは違う緊張感で毎回身が引きしまります。 他に不具合の原因となる箇所がないか調べながら分解したところ輪列軸も多少摩耗していました。摩耗部分を研磨しヒゲゼンマイを丁寧に修正したかいもあり測定器の値はどの姿勢でも20秒以内に収まりました。48時間の動作も確認できましたので、オーバーホールと追加でご依頼を頂いたケースの焼け取りで見た目にもリフレッシュした状態でお渡しができました。 S様 ご依頼ありがとうございました。 私が担当しました 修理担当した時計 私が担当しました kojima_satoshi@ushouseki.xsrv.jp 03-5458-5424 HOUSEKIHIROBA 小島 宝石広場修理部スタッフ。時計修理技師。時計修理業界歴約20年。 時計の状態確認/点検/判定/故障個所の修理などの技術的な対応から、接客/見積もりまで幅広く担当。 1つ1つの時計に丁寧に向き合い、お客様のお手元に良い状態でお戻し致します。 是非お気軽にお問合せください。 修理担当した時計 2531-80|オメガ シーマスタープロフェッショナル By 小島 2023年1月24日 WAZ2113.BA0875|タグホイヤー フォーミュラ1キャリバー5 By 小島 2023年1月10日 856.S.SG|ジン 856.S.SG By 小島 2022年12月27日 WAR211A.BA0782|タグホイヤー カレラキャリバー5 By 小島 2022年12月13日
担当者コメントと修理のポイント
他店でご購入された時計の持続時間が短く、精度も極端に遅れてしまうと渋谷店へご来店いただきました。
時計はロレックスのチェリーニ Ref.3768です(画像1)。
手巻き式のモデルで持続時間が短いというと原因は長期間メンテナンスをしていないことによる油切れやパーツの摩耗が多いです。振動や衝撃によりパーツが外れたり破損して歯車に引っかかっていることもありますが、その場合は遅れというよりは不動となることがほとんどです。
お預かりしたときにはケースが変色をしていました(画像2)。
本来、金が変色することはありません。ではなぜ変色するかというとケースに使われるのは24金(純金)ではなく、ある程度の固さや色合いを出すために金以外の金属を配合した18金が使われ、その金属が皮脂・汗・空気などに触れることで酸化しているためです。ご使用後に清潔に保つことで変色をある程度は防ぐことができます。
ムーブメントはCal.1600です(画像3)。時計を横から点検すると原因がわかりました(画像4)。
予想通り内部の油は全くない状態でしたが、それ以上に大きな原因としてヒゲゼンマイが大きく傾いていました。テンプに取り付けられているヒゲゼンマイは天輪と平行でなくてはいけませんが、天輪のアミダ部分と接触するほど傾いていました。
機械式時計はゼンマイを巻いた力が輪列を伝わり一気に解放されないように脱進機構が一定間隔で停止と停止解除を規則正しく繰り返すことで徐々に力を開放してテンポ(精度)を決めています。その脱進機構の中でも精度を一定に保つ重要なパーツの一つがヒゲゼンマイです。
ヒゲゼンマイは天輪の回転運動を一定間隔にするために正確な長さと形状で作られ片側をテンプ軸(天真)とつながるヒゲ玉に、片側をテンプ受けにつながるヒゲ持ちに固定されています。
天輪が回転運動をすると片側がテンプ受けに固定されているためヒゲゼンマイは収縮します。ヒゲゼンマイが傾いていたり中心がズレていると収縮するテンポを一定に保つことができなくなってしまい正確な精度になりません。結果として時間が合わない時計になってしまいます。
通常、ご使用しているだけで画像4の様にヒゲゼンマイが斜めになることはありませので、お預かりしたチェリーニは過去にヒゲゼンマイの作業ミスがあったようです。ヒゲゼンマイは時計の中でも特に繊細なパーツで厚みは100分の3程度と髪の毛よりも薄く作られています。わずかな平行・中心の狂いが精度の正確さに大きく影響してしまうため作業は慎重に行わなければなりません。
注意深く何度も観察しながら変形個所を特定し、できる限り少ない回数で調整しました。ヒゲゼンマイの修正作業は精度に大きく影響する技術者としての腕が試されている場面です。分解組立作業とは違う緊張感で毎回身が引きしまります。
他に不具合の原因となる箇所がないか調べながら分解したところ輪列軸も多少摩耗していました。摩耗部分を研磨しヒゲゼンマイを丁寧に修正したかいもあり測定器の値はどの姿勢でも20秒以内に収まりました。48時間の動作も確認できましたので、オーバーホールと追加でご依頼を頂いたケースの焼け取りで見た目にもリフレッシュした状態でお渡しができました。
S様 ご依頼ありがとうございました。