ジン 103 オーバーホール
私が担当しました
宝石広場修理部スタッフ。時計修理技師。時計修理業界歴約20年。
時計の状態確認/点検/判定/故障個所の修理などの技術的な対応から、接客/見積もりまで幅広く担当。
1つ1つの時計に丁寧に向き合い、お客様のお手元に良い状態でお戻し致します。
是非お気軽にお問合せください。
103.B.AUTO|ジン 103のオーバーホール・修理|腕時計のオーバーホール・修理なら【宝石広場 時計修理センター 渋谷】
担当者コメントと修理のポイント
動かなくなり、日付けもおかしな時間に切り替わるということで渋谷店へご来店頂きました。
お時計はジンの103.B.AUTOです(画像1)。
お預かり後に操作して確認をいたしましたところ、曜日は00:00ごろに変わりましたが日付けは4:00ごろに変わりました。
通常であれば日付けは00:00の前後10分ほどに切り替わりますので、おそらく日送り車が故障しているのだろうと想定して内部の確認をしました。
まずは、なぜ日送り車の交換を想定したか少しづつお話しをさせていただきます。
多くの場合、日付けの切り替わり時間がズレる原因は誤操作によるものです。
時計には日付けの早送りを操作を禁止している時間帯があります。モデルにもよりますが00時の前後4時間おおよそ20:00~04:00ごろを日付けの早送り禁止時間帯としています。
この日付け早送り禁止時間帯はカレンダー板(日板と曜日板の総称としてこのように呼んでいます)と日送り車(カレンダー板を回転させる歯車です)が噛み合っている時間帯です。
日送り車は針などを動かす輪列と常につながっているのですが、日付けの早送りはリューズ操作やボタン操作により全く別方向からカレンダー板に力をかけて切り替えています。
そのため日付けの早送り禁止時間帯に早送り操作をしますと噛み合っているカレンダー板と日送り車に無理やり回転させる力をかけることになってしまいます。結果として過度の負担がかかる日送り車とカレンダー板、早送り機構のうち比較的強度の低い日送り車の爪に欠損や歪みなどが起きることが多いのです。そのため今回お預かりしたお時計も日送り車の破損を想定しました。
針と文字盤を外した状態が画像2で、さらに分解して曜日板を取り外しました状態が画像3です。
画像3の赤矢印で指した歯車が日送り車でして、ちょうど日送り車とカレンダー板が噛み合っている状態です。先に説明しましたとおり、この状態が早送り禁止時間帯の歯車の位置関係です。この状態のときに早送り操作をしてしまうと、早送り機構によって青矢印方向にカレンダー板が回転しカレンダー板の歯と日送り車の爪が接触してカレンダー板や日送り車が破損してしまいます。
今回お預かりしたお時計は圧入されている日送り車の歯車と爪の位置関係がズレたことで切り替わり時間が変わっていました。幸い圧入の緩みはなく送り爪の歪みもなかったため、通常使用する分には再発も起きそうになくパーツ交換は必要ありませんでした。
画像4は分解と洗浄を終えて組み立て途中の状態です。
日送り車と曜日送り車は取り付けの目安がありますので、画像では目安を矢印で示してみました。
日送り車は隣の歯車の軸(細い矢印)、曜日送り車は地板に打刻された線(太い矢印)に爪を向けて取付けをします。
もしこの目安がないと歯車の組み立て段階で爪をどの向きに取り付けると日付けや曜日がいつ切り替わるか分かりませんので、ちょうどよく切り替わる爪の向きを探り当てるまで何度も分解と組み立てを繰り返すことになってしまいます。
ちいさなことではありますが、ところどころに作業を効率よくできる工夫がありますので作業を行うにあたり安心感をもって取り組むことができます。
お預かりしたお時計は日送り車を交換せずにすみまして日付けと曜日も0:00ごろに切り替わるようにできました。その他に交換部品もありませんましたので、ご依頼いただいたオーバーホールのみでお渡しができました。
K様 ご依頼ありがとうございました。