こんにちは!
宝石広場 時計修理センター渋谷スタッフの藤本です。🏍
「腕時計トラブル」ブログでは、腕時計の『遅れ』トラブルについて原因や対策について書きましたが、今回は反対の『進み』について解説いたします。
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『時計の調子が良くない = 時間が遅れる』と連想してしまいがちですが、進んでしまう症状も決して珍しくありません。時計が動作しているのに慢性的に遅れor進みが起きている場合は何らかの原因があります。
腕時計は非常に小さなパーツの集合体なので、誤った操作や使い方をしていると、時計内部の機械に負荷がかかり、故障の原因となってしまいます。
これまでお客様が『時計の時刻が進んでしまう』と当店に持ち込まれたケースから、時計が進む原因と対策をご紹介します。
※今回は機械式時計での進む事象をご紹介しますが、電池式時計で大きく進む場合は、回路等のパーツ不具合が考えられます。
※顕微鏡越しに撮影した画像の非常に小さな部分を拡大したので画質はキレイとは言えませんが何卒宜しくお願いしますm(_ _)m
目次
時計の時間がずれてしまうのは何故?
いつも時刻をピッタリ合わせてから腕時計を着用していても、ふと気が付くと時刻がずれていた…といった経験は無いですか?
どうして時計の時刻はずれてしまうのか?
デジタル機器と違って、機械式時計は歴史の長いアナログな製品です。
スマートフォンや携帯電話が普及した現在は、瞬時に現在時刻を把握できるようになりましたが、固定電話で時報を聞いて時刻を合わせていた頃は、瞬時に正しい時間が分からず、電車や飛行機に乗り遅れてしまう、重要な仕事や約束に遅れてしまう事が現在より多かったかもしれません…
ゼンマイの動力で動く機械式時計は、電力で動くクォーツ式時計・デジタル時計・スマートウォッチなどと比べて、時計の精度の面で大きく異なります。
機械式時計は、正確に制御された電気信号で動作するのではなく、物理的にゼンマイなどの動力パーツによる力で動作するため、部品数や仕組みなどが全く異なり、どうしても誤差が発生してしまうのです。
そのため、どんなに価格が高い有名ブランドの機械式時計でも、工作精度に優れた美しい名門ブランドの機械式時計でも、電気信号で正確に動作するクォーツ式などの電力で動作する時計に、精度では絶対に敵わないのです。
小型化された複雑な仕組みで動作する機械式時計は、使い続けるとどうしても誤差が発生し、パーツ交換やメンテナンスが必要となります。
不便な面もありますが、しっかり手入れをすれば長年にわたって愛用できるため、近年では機械式時計のアナログ的な魅力が再評価されています。
今回は、機械式時計に必ず発生する時間の誤差について、事例をもとに時計が『進む』原因と対策について綴っていきます。
時計が”進む”原因と対策
時計修理専門スタッフの藤本が今まで取り扱った事例から、時計の時間が『進む』原因と対策を代表的な5種類を解説いたします。
”進む”原因と対策 ① ゼンマイの巻き不足
[box02 title=”ゼンマイの巻き不足(機械式)“]
『遅れ』でもご紹介した”巻き不足”。ゼンマイの巻き上げが不十分だと精度が不安定になります。
時計は十分な動力(ゼンマイの巻き上げ)が蓄えられていないと本来のスペックを発揮しません。精度もその一つで、テンプが元気よく動いている方が精度が安定します。
自転車やバイクはスピードが出ていると安定しますが、低速だとフラフラと不安定になりますよね。テンプが安定して動いていないと精度が不安定になってしまいます。
『手巻き式の時計と違って、自動巻き式の時計は巻き上げは必要ない!』とか、『少し巻いたら動き出したので巻き上げ完了!』と勘違いされている方が非常に多いです。
■自動巻き時計でもゼンマイの巻き上げは必要です!
⇒ 腕の振りだけでは動力は完全に満たされません。リューズでゼンマイを巻き上げてください。
■精度を安定させるため、しっかりゼンマイを巻いてから使用する
⇒ 完全に止まった状態からは30~40回ほど巻き上げてからご使用ください。一般的な自動巻き時計では40~50回ほどでフルに巻き上がります。
★『遅れ』の時同様、ゼンマイの巻き上げて動力を蓄えるだけで解消する可能性がありますので、まずは試してみましょう!
症状:1日数分の進みなど、度合いは様々
対策:手動でゼンマイを巻き上げる
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”進む”原因と対策 ② ヒゲ絡み
[box02 title=”ヒゲ絡み(機械式)“]
青色の丸で囲んだテンプの中心の耐震装置には、オイルが保持されています。
その外側の周りに巻かれたヒゲゼンマイは蚊取り線香のように同心円を描いています。
これらが機械式時計の心臓部であるテンプを構成するパーツの一つであり、精度を決める重要な役割を担っています。
通常時と比較すると、赤色の矢印の部分が通常時と比べると間隔が狭く詰まっています。
ヒゲゼンマイが、衝撃などで上下や左右で重なりあってしまい形状が崩れてしまうと、精度に影響し大きく進むようになります。
ヒゲ絡み発生時の状況を横や裏側から見てみましょう。
↑金色のパーツ=緩急針にヒゲゼンマイの2周目が引っかかっています。↑引っかかってしまった影響で、画像の下から上へヒゲゼンマイの同心円が、矢印方向に偏った円形になっています。
通常使用ではこのような状態にはなりません。
ヒゲゼンマイが高速で伸縮しているところに衝撃が加わってさらに広がり、緩急針に引っかかったのが原因です。
そのまま放置していても絶対に直る事はありません。
シースルーバックの時計であれば目視で確認できる事もあります…。
症状:1日数十分~数時間の進み、重度の場合は止まる(動けない)
対策:衝撃を与えない
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”進む”原因と対策 ③ 磁気帯び
[box02 title=”磁気帯び(機械式)“]
時計が磁気を帯びてしまうと、電池式の時計では”遅れ”に作用しますが、機械式では”進み”になります。
ヒゲゼンマイが磁化する事により伸縮運動中にお互いにくっついてしまい、精度に影響し大きく進むようになってしまうのです。
小さなスマートフォンやノートパソコンのスピーカー部分にも強力な磁石が使われています。電子レンジや洗濯機などにもモーターを動かす磁石が使われています。
磁力は目に見えませんが、電化製品や電子機器で囲まれた私たちの生活圏には多数の磁力が飛び交っています。ロレックスのミルガウスやオメガのマスタークロノメータームーブメント搭載機など耐磁性能に優れた時計でない限りは、電化製品と時計は離して”磁気帯び”しないようにお使いください。
自分の時計が”磁気帯び”しているか、簡単に調べる方法があります!
症状:1日数十分~数時間の進み
対策:スマホ・イヤホン・PCのスピーカーなどから発生している磁気に近づけない(磁気を帯びてしまった場合は磁気抜き)
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”進む”原因と対策 ④ テンプ油流れ
[box02 title=”テンプ油流れ(機械式)“]
テンプを構成する耐震装置パーツの中心に受石(うけいし)と穴石(あないし)があり、油をサンドイッチして留めてあります。
この部分に衝撃が加わると、外乱によりサンドイッチしてある油が流出してヒゲゼンマイに付着し、ヒゲゼンマイが表面張力でお互いにくっついてしまい、精度に影響し大きく進むようになります。
通常時と比較すると、テンプ中心の耐震装置の中に閉じ込められていた油が、衝撃が加わったためか中心より左側へ流出してしまっています。
さらに、油が漏れ出た影響でヒゲゼンマイに油が付着してしまっています。
裏側から見てみましょう。
油の表面張力によりヒゲゼンマイ同時がくっつき合ってしまい、赤矢印の方向に偏っています。同心円が崩れて精度にも大きく影響します。
症状:1日2~3分の進みなど、度合いは様々
対策:衝撃を与えない
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”進む”原因と対策 ⑤ 振り当たり
[box02 title=”振り当たり(機械式)“]
時計の心臓部の調速機と脱進機は元気よく動けば良いというわけではなく、とっっても絶妙な調整がされています。
元気よく動き過ぎるとゼンマイの力が強すぎて歯車が早く回る事により精度は”進み”になってしまうのです。この現象を『振り当たり』と言います。
大雑把なイメージとしては、人が歩いているところに後ろからさらに押されるような感じです。
※文章や写真では説明が難しく、何とかの法則などの時計の構造を根本的なところから説明しなければならなくなるので今回は割愛せていただき、今後”振り当たり”のテーマで記事を書く予定ですm(_ _)m
ご購入やメンテナンス後しばらくしてからではなく、間もなく起きる事が多い症状です。
症状:1日数十分の進みなど、度合いは様々
対策:なし
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以上の5つの事例の中で、『ゼンマイの巻き不足』と『磁気帯び』に関するご相談は、非常に多いです。ぜひ正しい使い方で長年ご愛用ください。
そして、テンプの『ヒゲ絡み』と『油流れ』は、衝撃が原因で起きる症状です。
衝撃は、さらに他の部分にも不調を及ぼす可能性も十分に考えられますので、普段から強い衝撃に注意してお使いください。
”進む”時計の修理料金と修理期間はどれくらい?
時計が正しく時間を示さない『進む』トラブルの場合、いったい修理代金や期間はどれくらいになるのでしょうか?
※ちなみに残念ながら、そのままの状態にしていても正しく直る可能性は有りません
当店での時間が進んでしまう時計の修理対応は、基本的には『オーバーホール』での修理対応となります。
オーバーホール(Overhaul)とは、時計本体を分解して、パーツを洗浄し、劣化したパーツは交換し、摩耗部分へ注油・動作部分を調整し時計を組み立て、機能や動作チェックと精度を測定、最終検品まで一連に実施する工程のことです。”分解清掃”とも呼ばれ、機械式時計でもクォーツ式時計でも、購入から数年経過した時計には必ず必要なメンテナンスです。
オーバーホールの料金や期間の目安
・機械式の場合は¥26,000~、1.5~2ヵ月程
・電池式の場合¥24,000~、1.5ヵ月程
※追加機能があったり特殊モデルの場合は、上記の金額+αになります
不具合の状態、クロノグラフやパーペチュアルカレンダーなどの追加機能、メーカーによって修理に関する料金や期間が変わってきますので、お電話・メール・LINEでご相談ください。
▷ 宝石広場の時計修理センター渋谷へお気軽にご相談ください
時計が”進む”原因と対策まとめ
時計が遅れないようにするために、日頃から下記に注意して使いましょう。
ゼンマイをしっかり巻き上げる
十分にゼンマイの巻上げを行ってみましょう。
お時計の状態に問題が無ければ、しっかり動力を供給する事により精度が安定します。
衝撃を与えない
少しの高さからの落下でも、小さな腕時計にとっては大きな衝撃となります。
柔らかい布やクッションの上など保管場所にも注意して、衝撃が加わらないようにデリケートにお取り扱いください。
磁気に近づけない
スマホやイヤホンやノートPC、バッグの留め具のマグネットに近づけないようにしましょう。
機械式腕時計は複雑な機構の精密機器です。
また、腕に載せる為に小型化されているので、ほんの些細な事で影響を受けてしまいます。
スマホなどのデジタル機器に囲まれた現在では、磁気帯びのリスクが高く、時計の遅れに関するご相談のは多くはゼンマイの巻き不足と磁気帯びが原因である事が非常に多いです。
もちろん巻き上げをすれば全て解決する症状ではありません。
正しい使い方をした上で『進み』が起きる場合は、メンテナンスを要する状態です。
進む反対の”遅れる”というトラブルも発生します。
詳しくは下記をご覧ください。
https://u-s-blog.com/shuuri_okure/
大切な時計が、急に進むようになってしまったら是非ご相談ください!
オーバーホールをはじめ、時計のメンテナンスについてのご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。他店舗で購入された時計でも修理対応いたします。 弊社の時計修理士が的確な修理・オーバーホールのご案内をさせていただきます。 |
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また次回の『腕時計トラブル』ブログにご期待ください!(@_@)!
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【宝石広場 時計修理センター 渋谷|宝石広場アフターサービス部スタッフ】
夏も冬も眩しがり屋のアイウェア大好きマン♂バイクとコスプレが趣味です♪時計の修理メンテナンスに関して何でも包み隠さずお答えいたします!
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