こんにちは。
宝石広場のアフターサービス部の藤本です。
私事ですが、1年程前にバイクを乗り換えました!🏍
前の車両はヘッドライトがLEDで明るかった(今では当たり前デスヨネ)のですが、今の車両は少し古めのモデルなのでライトはハロゲン(電球)!
ふんわりした優しい灯りよりも視認性を求めている私は、LEDの偉大さを知るともに、技術の進歩の素晴らしさを痛感したのでした。。。
時計においては、暗闇で時刻の判読性を高めるため、針やインデックスに夜光塗料が使われている物が多くあります。
目覚まし時計の針やインデックス部分などを光らせるために塗られているあの緑色の塗料が、小さな腕時計にも使われています。
その夜光塗料は、現在に至るまで様々な種類を経て進化しています。
今回は、暗闇でも時刻がバッチリと光る『夜光塗料』についてお話しします✨
目次
腕時計に使われる夜に光る夜光塗料とは
腕時計には、どのような夜光塗料が使われてきたのでしょうか。
時計の夜光塗料とは
夜光塗料とは、その名の通り”夜に光る”塗料です。
時計の文字盤や計器類などの夜間視認を可能にするために、1900年代の初めに軍用目的として研究や開発が始まりました。
腕時計の代表的な夜光塗料は、使われなくなったものも含めると下記の4つです。
・ラジウム
・トリチウム
・ルミノバ
・クロマライト
さらに夜光塗料は、自発光と畜光の2つに大きく分けられます。
自発光の夜光塗料 <ラジウム・トリチウム>
自発光とは、その名の通り塗料自らが光を発して光るものです。
人体に有害!?自ら光る夜光塗料
塗料の物質自身が、燃焼などの化学反応していない状態で光を発するのは、放射線エネルギーを放つ放射性物質だからです。
現在では、有害な危険物質として特に恐れられる存在の放射性物質が、過去には少ない量ながら夜光塗料として使用されてきました。
その放射性物質による自発光の夜光塗料は、2つに分類されます。
【ラジウム】
ラジウム夜光塗料は、主に1960年代以前の時計に使われた夜光塗料です。
放射線源として以前は放射線治療に使用されていましたが、現在では工業的な用途はほとんどありません。
半減期(発せられる放射線が当初の半分になる期間)は、約1600年!なので相当なエネルギーを持つと同時に放っている物質です。
ラジウムの放つ放射線が、風防を超えられない短くて弱いα(アルファ)線のため、使用による人体への影響は無いとされてきましたが、文字盤にラジウムを塗る作業員が受けた健康被害が1930年代に明るみとなり使われなくなりました。
※1967年に国際原子力機関IAEAが時計への使用を規制した事もあり、現在では一切使われていません
ラジウムを用いた時計といえば、パネライが有名です。
イタリア海軍の要請によりラジウムを用いた新しい自発光の夜光塗料を1910年に開発。
その夜光塗料を採用した軍用時計は「ラジオミール」と命名され、1936年にプロトタイプが発表され、1938年から本格的に生産が開始されました。
↑1936年発表のプロトタイプ ラジオミールを復刻した限定モデル
▶パネライ ラジオミール1936 世界限定1936本 PAM00249
【トリチウム】
トリチウム夜光塗料は、1900年代後半~2000年頃の時計に使われた夜光塗料です。
ロレックスですと、1998年頃製のU品番くらいまで使われていました。
後述の、機能性と安全性に優れた夜光塗料のルミノバが登場したため、現行品の時計ではほとんど使われなくなっています。
ラジウムのアルファ線と同じように、トリチウムの放つ放射線も風防で防げるレベルの短くて弱いβ(ベータ)線で、腕時計に使われるような微量であれば使用による人体への影響は無いと言われています。
半減期は十数年(約12年ほど)ですので、現在では強く発光する個体は少なくなってきています。
トリチウムを夜光塗料に用いた時計の文字盤には、トリチウムを表す”T”が追加された『 T SWISS T 』、『 T SWISS MADE T 』、『 SWISS-T〈25 』と記載されています。
”T<25”は、風防ガラスの外側で計測した放射線量が25マイクロキュリー以下である事を意味しています。
(”キュリーCurie”とは放射能量を示す単位で、1911年にラジウムを発見したキュリー夫人から命名)
経年劣化すると表面がクリーム色になり、独特な雰囲気を醸し出します。
トリチウム夜光使用 『 T SWISS T 』表記
▶ ROLEX オイスターパーペチュアル デイト 1501 1974年頃製
トリチウム夜光使用 『 T SWISS MADE T 』表記
トリチウム夜光使用『 SWISS-T〈25 』表記
経年によりヤケた色合いが、ロレックスやオメガなどの古いモデルを集めるアンティークウォッチやヴィンテージウォッチ好きにはたまらない人気のポイントになっています。
畜光の夜光塗料 <ルミノバ・クロマライト>
畜光とは、放射能物質を含まず、夜光塗料が光を浴びて蓄えてから光るものです。
畜光の夜光は、太陽光や電灯から蓄えた光で発光します。
明るい環境下では分かりづらいですが常に微量に発光しています。
光が蓄えられていない状況ではあまり光りません。
畜光の夜光塗料 ルミノバ(スーパールミノバ)
日本の化学メーカー「根元特殊化学株式会社」が1993年に開発した、放射性物質を含まず、従来の約10倍の明るさと発光時間を持つという画期的な蓄光塗料が「N夜光Luminova ルミノーバ」通称『ルミノバ』です。『スーパールミノバ』という、ルミノバよりもさらに強く明るく光る上位版も開発されました。
トリチウムよりも安全で長時間明るく光るルミノバは、トリチウムに替わる夜光塗料として2000年頃から採用され、その圧倒的な性能から現在ではかなりのシェア(全世界で80%以上!)を占めています。
ルミノバ夜光塗料の色は、黄緑色が最もポピュラーですが白や黄色などカラーバリエーションがあります。色によって明るさに差があるようです。
ルミノバを夜光塗料に用いた時計の文字盤には、ルミノバを表す”L”が追加され『 L SWISS MADE L 』と記載されていることがあります。
ルミノバ夜光使用 『 L SWISS MADE L 』表記
畜光の夜光塗料 クロマライト
クロマライト(Chromalight)とは、ロレックスが独自に開発して特許を取得した夜光塗料で、ロレックスだけが使用しており、発光時間はスーパールミノバの2倍の8時間を誇ります!
高性能なスーパールミノバを超える、より高性能な「クロマライト」を自社で開発し使用するという”最高の実用時計”がポリシーのロレックスだからこそ出来た最高の塗料です。
クロマライトを夜光塗料に用いた時計の文字盤には、”C”とは表記されていないので、明るいところではルミノバかクロマライトか判別は難しいです。
2007年に登場した「ミルガウス 116400」から使用され始め、オイスターパーペチュアルなど一部モデルでは途中から夜光塗料がルミノバ⇒クロマライトにシフトしていきました。
2008年に発表された「ディープシー 116660」でも当然ながら採用され、ロレックス独自の高性能な夜光塗料として認知度が一気に高まりました。
ルミノバと比べると通常時は白っぽい色合いですが、暗所では青く発光するのが特徴です。
モニターやカメラ越しだと濃い青になり、雑誌やホームページで見るような色になります。
時計の夜光を光らせてみた
現在流通している腕時計に使用されている「畜光」タイプの夜光塗料について、どのように発光するのか、蛍光灯の電灯下だと分かりづらいので、部屋の明かりを消して撮影してみました。
※ラジウム夜光の時計は、残念ながらご用意が叶わず、トリチウム・ルミノバ・クロマライトの3種類のみで比較してみました
自発光の夜光が光っている状態
【 トリチウム 】
↓
藤本は決してふざけておりません!
うっっっっすら発光していますが、トリチウムのパワーが衰えてしまっており、ほとんど見えなくなってしまっています…。
トリチウムも老いには勝てないようです。
畜光<ルミノバ・クロマライト>が光っている状態
【 ルミノバ 】
さすがのパネライです!グリーンの色でハッキリと時刻が判別できます!
ロレックスも負けていません!
無理やり蓄光させたわけではなく、部屋の照明を消しただけでこれだけ光ります!
青いですね!!
ルミノバと同じ照明を消しただけの環境下で実験していますが、蓄光させた場合はスペックが優れているクロマライトの方が長時間発光するようです!
※カメラで撮影したモニター画面で見る画像だと、実際より綺麗に見えています
カタログ画像のようにクッキリ光る(光らせる)には、強力な光を長時間当てるなどの条件があり、光の届かない深海へのダイビング以外の日常生活では、強力に発光する機会はなかなかありませんね。
腕時計に使われる夜光塗料の注意点
夜光塗料は、永遠に光り続けるのでしょうか??
⇒永遠ではありません。何らかの原因で光らなくなります。
夜光塗料が光らなくなったら
古い時計の夜光塗料は経年劣化で光らなくなる
気が付いたら夜光部分が光らなくなった、買った当時よりも光り方がボンヤリしてる…。
最新モデルの時計ではなかなか有り得ないですが、古い時計で光らなくなった場合は、たいてい夜光部分の『経年劣化』が疑われます。
ラジウム夜光・トリチウム夜光の時計は、製造から多くの年月が経過していますので、放射性物質の崩壊により放射線が衰えたり、温度変化や紫外線を浴びたり等の経年劣化により夜光の光り方が弱まっています。
夜光塗料の経年劣化により夜光の光りが弱くなるだけでなく、物理的にヒビや欠けなどが発生することもあります。
製造から30年以上経過している”アンティークウォッチ”や”ヴィンテージウォッチ”を選ぶ際は、外装のコンディションだけでなく、細かい部分で夜光部分の光り方にも是非ご注意ください。
夜光塗料は水気に弱い
夜光部分がなんか黒ずんでいて、光り方が弱くなってる気がする…。
そんな場合は、時計内部への『水気入り』が疑われます!
水分により夜光塗料のパウダー状の粒子が流れ出たり、水分付着により劣化が進んで夜光部分が光らなくなります。
水気=水分は、精密機械の時計にとって大敵です!ご注意ください!
↓時計内部に水が浸入してしまった事例や対策を紹介した過去の記事も是非ご覧ください。
https://u-s-blog.com/kumori/
蓄光の夜光塗料のメンテナンス方法
現在の時計に使われている蓄光の夜光塗料<ルミノバ・クロマライト>は、基本的にメンテナンス不要です。光を当てれば、その光が蓄えられて暗闇で光ります。
自発光の夜光塗料<ラジウム・トリチウム>のようにエネルギーが無くなる事もなく、温度変化や紫外線などにも強いため、経年による劣化はほとんど有りません。
現在の夜光塗料は、温度変化や経年劣化に強く光り続けるという非常に高性能なものですが、腕時計は小さなパーツが絶妙なバランスで複合的に構成された精密機械です。
時計にとって水気は大敵ですので、風呂や海での使用やゲリラ豪雨などによる時計内部への水気入りに十分に注意し、真夏の車内やサウナなど高温な場所に放置せず、強い衝撃を与えないように注意してお使いください。
腕時計の夜光の修理について
夜光部分の修理は基本的に「文字盤交換」となります。
”6時のインデックス部分だけ光り方が弱いので塗り直して!”という部分的な修理対応は出来かねてしまいます。
文字盤や針の替えパーツが用意できるメーカー修理一択となってしまうので高額な修理代金が発生します。
トリチウム夜光の時計を、文字盤や針交換依頼でメーカー修理に出した際に、パーツ製造終了などの理由ルミノバ夜光の物しか代用品が無く、それが取り付けられたため”文字盤はトリチウム”でも“針はルミノバ”という、ちぐはぐな組み合わせになってしまう修理事例もございます。。。
トリチウム愛好家の方々にとっては非常に恐ろしい事態かと思います!
夜光部分の修理の場合は、夜光塗料だけではなく機械内部にも水気がダメージを与えている可能性が大きいので、早めのお修理を強くオススメします!
先ずは下記までお気軽にお問い合わせください。
オーバーホールをはじめ、時計のメンテナンスについてのご相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。他店舗で購入された時計でも修理対応いたします。 弊社の時計修理士が的確な修理・オーバーホールのご案内をさせていただきます。 |
腕時計に使われる夜光塗料 まとめ
腕時計だけでなく、目覚まし時計や壁掛け時計にいたるまで”光って当然!”と思われている便利な『夜光塗料』ですが、今までに性能の異なる複数の種類が存在しました。
ラジウム(1960年代まで)⇒トリチウム(1990年代まで)⇒ルミノバ(2000年頃から)という変遷をたどってきました。
今回ご紹介した代表的な夜光塗料以外にも、ボールウォッチが独自に開発した、従来までのルミノバ夜光塗料より70倍も明るい!&昼夜を問わず10年以上も光り続けるという、ボールウォッチ自慢の夜光『マイクロ・ガスライト』など、スーパールミノバやクロマライトを超える高性能で個性的な夜光塗料がまだまだ存在します。
↑ガラス管内のトリチウムと蛍光塗料の電子が作用して光るボールウォッチ”マイクロ・ガスライト”
さらに今後は、デジタル時計のテクノロジーが融合したものや、長寿命かつ省エネルギーで明るく光るという新素材の開発など、より明るくカラフルに光らせるための画期的なテクノロジーが登場するかも知れませんね!
今後も【時計の機能研究】として取り上げたいと思います。
時計修理専門スタッフ目線で書く、次回のブログにご期待ください!それでは(@_@)!
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【宝石広場 時計修理センター 渋谷|宝石広場アフターサービス部スタッフ】
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