ブランパン ヴィルレクロノグラフ オーバーホール・外装仕上げ
腕時計修理内容
ブランド名 | ブランパン |
モデル名 | ヴィルレクロノグラフ |
型番 | |
修理内容 | オーバーホール・外装仕上げ |
修理料金 | ¥77,000-(税込) ※事例公開時の価格となります。 |
修理時間 | お見積り3週間、作業7週間 |
症状タグ | 止まる油切れ |
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今回ご紹介する修理事例はブランパンの ヴィルレ クロノグラフのオーバーホールです。
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搭載しているムーブメントはフレデリック・ピゲのCal.1185です。
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ベアリングにはローターを留める小判があります。
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ローター側にはベアリングと対になる穴があり、皿ネジで留めるため上部はテーパになっています。
ブランパン (中古)|腕時計の販売・通販「宝石広場」 (housekihiroba.jp)
私が担当しました
宝石広場修理部スタッフ。時計修理技師。時計修理業界歴約20年。
時計の状態確認/点検/判定/故障個所の修理などの技術的な対応から、接客/見積もりまで幅広く担当。
1つ1つの時計に丁寧に向き合い、お客様のお手元に良い状態でお戻し致します。
是非お気軽にお問合せください。
担当者コメントと修理のポイント
今回ご紹介する修理事例はブランパンの ヴィルレ クロノグラフのオーバーホールです(画像1)。
同メーカーの中でも最もクラシックでトラディショナルなコレクション【ヴィルレ】。ブランパンが誕生した地名から名付けられています。
こちらは渋谷本店でお買取りさせて頂き、販売前のメンテナンスを宝石広場 時計修理センター 渋谷が依頼された一本です。
外装には経過年数なりの使用傷と多少の打痕がつき、内装もリューズを操作した感触から良いとは思えませんでした。リューズ操作感は内装の状態にも影響を受けますが、リューズパッキンのグリス切れが原因で悪化することも多いです。
リューズパッキンは内部に水気の侵入を防ぐためリューズ内側とチューブの外側に隙間がない様に取り付けられているパーツです。グリスをさすことによってスムーズな潤滑と密閉性を保っていますが、リューズ操作をするたびにパッキンは擦れますのでグリスは徐々に摺動面の外側へ押し出されていきます。また経年によりグリスは劣化しますのでパッキンの摩擦が大きくなっていき、リューズ操作感が重くなったりパッキンが擦れる”キュッキュッ”という音が聞こえる様になってしまいます。汚れが溜まるとグリスの劣化も進みやすく、使えるからと放置しているとパッキンが摩擦に耐え切れず千切れてしまうこともありますので何かおかしいと感じたらお気軽にお声がけください。
搭載しているムーブメントはフレデリック・ピゲのCal.1185です(画像2)。フレデリック・ピゲはムーブメント製作会社。2010年にブランパンが吸収合併したあともブランパンの名義で同じムーブメントを作り続けています。ブランパンのサイトに一覧が掲載されていますが慣例的にフレデリック・ピゲのCal.●●●●と呼んでいます。
このムーブメントの特徴は薄さにあり普及モデルに搭載されることの多いETA Cal.7750の厚みがおよそ7.9mmあるのに対してCal.1185の厚さはおよそ5.4mmとその差は2.5mmほどもあります。ムーブメントの薄さはさておき、このムーブメントについて個人的にとても印象が大きいのがローターの留め方です。ローターはベアリングにネジ留めされており、それ自体は他のムーブメントと変わりありません。ですがローター側のネジの取付け穴は円の両サイドをカットしたいわゆる小判型の穴が開いており、ベアリング側にはローターの小判と対になる凸形状の小判が作られています(便宜上、以降この対の形状を小判と呼びます)。またローターネジの取り付け面をテーパにし、同じくテーパ面のある皿ネジで留めています。このテーパや穴の形状はローターが回転する中心にローター留めネジがある影響で緩み易いため設けられたのだと推測しています。ただしネジが緩んでしまったときある程度までは機能してくれるものの、小判はとても低いため”ある程度”を超えてネジが緩んでしまったときはローターとベアリングの小判が擦れて摩耗してしまいます。
磨耗はベアリングと比べて柔らかい素材で作られたローター側の小判から始まります。初期にネジの締め直しにより対処ができれば食い止められますが、そのまま放置してしまうと次第に大きく変形していき、最終的にはネジを締め直したとしてもベアリングとローターの小判部分が噛み合わなくなり、正常に固定できなくなってしまいます。小判が変形するとローター側は薄くベアリング側は固く高さもないため、両方とも修正することはできません。そうなると当店では入手できませんのでメーカーでの修理が必要になります。メーカーでは部分的なパーツの交換は受け付けておらずオーバーホールも必須になりますので修理費用も高額になりがちです。ローターネジが緩むと自動巻きの効率低下や内部異音などが起きますので、いつもより止まりやすい・音がするなど気になることがありましたら早めにメンテナンスをお勧めします。
今回のブランパン ヴィルレクロノグラフは外装の程度に比べて内部に致命的な不具合はなく、分解しつつ行ったパーツの状態確認でも再調整や交換が必要な箇所はありませんでした。組み立てと注油にて調子よく動作し、実測でも良い精度が計測できましたので外装の仕上げの後で店頭へ並ぶ予定です。
こちらのブランパン ヴィルレクロノグラフをお客様からお預かりしていた場合はオーバーホール基本料金が65,000円、オーバーホールと一緒に外装仕上げをご希望の場合はセット料金で12,000円です。
修理のご依頼は他店にてご購入されたお時計でも承っております。配送にて対応をご希望の場合は配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。
ご使用中の精度が気にならないからとメンテナンスをせずにお使いになられる方もよくお見かけします。また、動けばいいとオーバーホールではなく部分的な注油などの軽作業をご希望される方もいらっしゃいます。腕時計は小さなパーツの集合体ですので軽作業で動かすだけでは根本的な解決にはならないことも多く、目に見える不調が起きたときには大量のパーツ交換が必要なことも珍しくはありません。ご使用になっているなら当然のこと、お使いにならなくとも経年により内部状態は刻一刻と変化しています。
長期間オーバーホールをされていないと心当たりのある場合はぜひ当店にご依頼ください。