ブライトリング ニュースーパーオーシャン オーバーホール・外装仕上げ・ゼンマイ交換

担当者コメントと修理のポイント

今回ご紹介する修理事例はブライトリング ニュースーパーオーシャンです(画像1）。特殊部隊の為に開発されており、視認性がよく1500メートルという圧倒的な防水性能は他のモデルを圧倒します。飽和潜水に対応するためにヘリウムエスケープメントバルブも搭載しています。

こちらのブライトリング スーパーオーシャンは新橋店にてお買取りいたしました後、アフターサービス部が販売前のメンテナンスの依頼を受けた1本です。15年ほど前にご購入頂いた後は数年に1度の定期的なメンテナンスとしてオーバーホールと外装仕上げのご依頼を頂いてきました。前回のメンテナンスから数年たち外装は多少の使用傷がついていましたが、大きな打痕はなく外装仕上げにて綺麗にできそうでした。動作は手巻きをしても不動状態。手巻きの操作感が軽いことと時計を軽く振ると秒針が揺れ動くことから動力ゼンマイが切れていると推測しました。
ゼンマイは薄く長い金属板に収縮性を持たせるために熱処理をしていますので、処理のムラが発生すると新品であっても短期間で切れてしまうことがあります。またゼンマイは常に力の加わった状態のため劣化は避けられず、性能が落ちている場合には交換することもあります。ですが見た目からは劣化の程度がわかりませんので当店では作業時に大きく変化をしていない限り再利用しています。経験則として5～8年ほどで交換するケースが多いのですが、今回のニュースーパーオーシャンは15年間、一度も交換せずにお使いいただけていました。

搭載しているムーブメントはETA Cal.2824-2です（画像2）。
手巻きの操作感と秒針の動きからほぼゼンマイ切れで間違いないと推測しましたが、個人的なルールとして原因を視認するまでは断定せずに作業を進めました。このルールは修理を始めたばかりの頃に思い込みで作業を進めてしまい、正しい原因の究明が難しくなることがあったため自分への戒めとして決めました。今回の不動・手巻きが軽い・秒針が揺れるという症状はネジ外れや歯車の欠けなど見てすぐわかる原因だったこともあれば、複数の要因が重なって起きていたこともありました。ほぼ100％の確信を持てたとしても、あくまで経験上の推測にすぎず原因の視認は私にとって欠かすことのない工程です｡
裏蓋を開けた時点で原因となるネジの外れや歯車の欠けがないことはわかりましたので、香箱単体を触ってみると動力が途切れていることがわかりました。次に香箱を取り出し蓋を開けるとゼンマイが切れていることが確認できました（画像3）。見やすくするために先ほどは香箱蓋側に付いていた香箱真とゼンマイの切れ端を香箱内に置きました（画像4）。ゼンマイが赤丸の位置で切れていることがわかりますでしょうか。ゼンマイ切れにより不動になった場合、多くは今回のように中心から二周目辺りが切れてしまいます。 巻上げの始まりで常に収縮と拡散をしている箇所のため金属疲労をしやすいのでしょう。
当初の推測通り不動の原因はゼンマイ切れと確定できました。ゼンマイが切れると一瞬で輪列に力が解放されるため、歯車の先に変形･欠けが起きたりアガキが狂うことがありますので分解と並行して普段より慎重に状態の確認を進めました。幸いパーツに破損はありませんでしたがアガキに若干の狂いがあったので組み立て前に調整を行いました。その後は洗浄・組立て・注油をすませると計測・実測ともに良好な精度を記録できました。
外装仕上げの後で店頭へ並ぶ予定です。

こちらのブライトリング ニュースーパーオーシャンをお客様からお預かりしていた場合はオーバーホール基本料金が30,000円、オーバーホールとセットで外装仕上をした場合+14,000円、別途パーツ交換出¥6,500、合計¥50,500にてご依頼を承っております。
配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。

ゼンマイは何の兆候もなく切れてしまい、切れてしまうと先述の通り全体のチェックも必要になります。また今回のブライトリングの様に長期間の使用に耐えることもあれば短期間で切れてしまうこともあり、毎回交換すれば良いというわけでもありません。当店では作業時に問題がなければ再利用し必要であれば交換する方針です。長期間メンテナンスをせずに使い続けると劣化したパーツはゼンマイ切れの影響で破損してしまうこともありますので、心当たりのある方は致命傷になる前にぜひ当店にご相談ください。