フランク ミュラー トノウカーベックスサンセット オーバーホール・外装仕上

担当者コメントと修理のポイント

今回ご紹介する修理事例はフランク ミュラー トノウカーベックスサンセットです（画像１）。
美しい曲線を描くトノウカーベックスに、ブラック・アラビアインデックスが特徴の“サンセットダイヤル”を合わせた「5850SCRS」。ブルースチールの針と合わさり涼しげな印象のモデルです。
すでに販売済みですが、外装仕上げを含めたメンテナンスを終えてこちらと記事下部のリンクにて販売していましたので宜しければご覧ください。

こちらは他店で購入されたものを渋谷本店にてお買取りさせていただき、販売前のメンテナンスのためにアフターサービスへ回ってきた1本です。
正確なご使用年数はわかりませんでしたが、傷ついた外装やブレスレットのガタつき具合から考えると長くご使用されていたようです。見た目に傷は多いものの深い打痕はなく、外装仕上げを行うと跡を残さず綺麗にできそうでした。
内部の状態を調べるため行ったリューズ操作に気になる点はなく、計測器の精度も悪くありませんでした。悪くないと言ってもご使用されてきた時計です｡テンプの振り角は正常な状態より低く、オーバーホールは必要な状態でした。
テンプ振り角の低下には様々な原因が考えられるためこの時点で原因の特定はできませんでしたが、傷の多さからメンテナンス頻度が低かったのかもしれないと想定して作業を進めました。

詳しく見るために裏蓋を開けました。ムーブメントはETA Cal.2892系がベースのCal.2800です（画像2）。
すぐに気が付いたのは内部に入り込んだゴミの多さです。それも油や摩耗のカスではなく、埃や毛ゴミなどの経年では発生しないゴミが大量に入り込んでいました（画像3）。

フランク・ミューラーのトノウケースは裏蓋とケースの間にゴミががたまり易く、
知らずに裏蓋を開けると隙間にたまったゴミが内部に入り込んでしまうことがあります。製造時にここまで大量にゴミが入り込むことはなくオーバーホール時もケースを洗浄してから組み立てますので同じです。ギャランティーなど付属品がない個体ですので当店に来る前に他店が買取査定の真贋目的で裏蓋を開けたのだと思います｡
パーツを確認しつつ分解していくと各部に作業跡がついていました（画像4）。
サイズが合わないドライバーで作業したためネジが変形している上、何があったのかわかりませんが梨地の部分には金色の擦れ跡がついていました。全く跡をつけずに作業することは難しいですが、一目でわかる傷を付けてしまうようだと他の作業も不安になります。もしオーバーホールをされていたとしても作業の荒さがわかる跡ですし、各部につけられた作業跡を見るとどこかに致命的な作業ミスがあってもおかしくありません。よりいっそう慎重に分解を進めました。
最終的にパーツを全て分解しても動作に支障がでる箇所はなく経年により油が劣化している程度だったため、テンプの振り角低下の原因は経年による油の劣化によるものと断定しました。洗浄・組立て・注油を行うと低下していたテンプの振り角は正常な数値を取り戻し、ケーシング後のランニングテストでも安定した精度を記録できました。

こちらのフランク ミュラーをお客様からお預かりした場合はオーバーホール基本料金が41,000円～(パーツ代金別途)、オーバーホールと一緒に外装仕上げを追加の場合はセット料金で14,000円です。
修理のご依頼は他店でご購入されたお時計でも承っております。また配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。

動いているからと長期間メンテナンスをせずご使用になり、動かなくなってからお持ちになられる方がいらっしゃいます。
ですが不調がなくとも経年などにより内部状態は刻一刻と変化しています。長期間メンテナンスをせずにご使用になるとパーツにダメージが入りやすく、いざ不動になってからオーバーホールをご依頼いただいたときに大量のパーツ交換が必要なことも珍しくはありません。
お心当たりのある場合はぜひ当店にご依頼ください。