ロレックス オイスター パーペチュアル ミルガウス オーバーホール・外装仕上げ

担当者コメントと修理のポイント

今回ご紹介する修理事例はロレックス オイスター パーペチュアル ミルガウスのオーバーホールです（画像1）。
インパクトのあるイナズマ針が特徴的なミルガウスは機械式時計のムーブメントに悪影響を及ぼす磁気に囲まれた環境でも正確に動作するように耐磁性能に優れた特殊モデルです。残念ながら2023年に廃番になってしまいましたが、多くの電化製品や電子機器から発せられる強力な磁気に囲まれた現代社会にマッチしたスポーツロレックスとして、宝石広場でも 年々お問い合わせが多くなっているタイムピースです。
こちらとページ下部のリンクで販売しておりますので宜しければご覧ください。

宅配にてお買取りさせて頂き、修理センター渋谷が販売前のメンテナンスの依頼を受けた1本です。ロレックスでオーバーホールを行った際に発行されるサービスギャランティーが付属し、2019年1月の日付が記載されています。これ以降にメンテナンスがされていなければ5年は未整備のまま経過していることになります。
外装は経過年数なりに多くの小傷がありましたが、深い打痕はなく綺麗に仕上げできそうでした。ただ、手巻きの際に引っかかるような感触があったことから経過年数も考えるとオーバーホールが必要と予想しました。これは手巻きに違和感がある原因のほとんどが自動巻き機構の切替車の不調にあるためです。不調を起こした切替車は摩耗が進み、発生した摩耗粉がケース内に散らばってしまうことも多いのです。切替車は特殊な歯車で、ローターが左右どちらに回転しても切替車を経由することで一方向の回転のみをゼンマイ側へ伝えます。ムーブメントにより構造の違いはありますが、小さかったり繊細なパーツが多い腕時計の中でも特に慎重な扱いが必要なパーツの一つです。油切れや油劣化により正常な動作ができなくなると様々な不調が起こり、今回のミルガウスの様な手巻きに違和感がある状態はよくみかけます。

裏蓋を開けるとスクリュー式の内蓋があり、磁束密度を表す矢印とBが刻印されています（画像2）。ミルガウスの最大の特徴である耐磁性能はこの内蓋とムーブメントに使われている素材により備えられています。内蓋がムーブメントを包み込むように取り付けられて保護しているうえ、ヒゲゼンマイや脱進機に耐磁素材を使うことでムーブメント自体の耐磁性能も向上しています。内蓋を取り外すと搭載しているCal.3131を見ることができます(画像3）。ムーブメントを見てまず始めに気が付いたのは角穴車に散らばる摩耗粉です（画像4）。磨耗粉の付着している位置関係は切替車の真下でしたので、動作確認の際に予想した通り切替車に不調がありそうでした。
ちなみにパーツも時計自体と同じく高騰していますので、当店で入手可能な場合でもトータルで考えてメーカー修理にする場合もあります。特にロレックスの切替車は高額で1つ¥36,500、2つ交換すると¥73,000となり、オーバーホールの基本料金¥28,000と合わせて¥101,000ですのでメーカーの基本修理料金を超えることになります。お客様からお預かりした場合の当店とメーカーの修理料金に差が小さい場合はそれぞれのメリット･デメリットを含めてご案内してお選びいただいております

自動巻き機構を分解したところ、切替車の一つは摩耗により交換が必要でしたが、もう一つは摩耗も少なく洗浄で再利用できそうでした。洗浄してみて動作を確認するとスムーズに機能しましたので再利用可能と判断しました。その他全てのパーツを分解しても交換が必要なパーツはなく、洗浄・注油・組立てにて良好な精度を記録し、外装も綺麗に仕上げできましたのでこちらにて販売しております。

こちらのロレックス オイスター パーペチュアル ミルガウスをお客様からお預かりしていた場合はオーバーホール基本料金¥28,000、オーバーホールと一緒に外装仕上げをご希望の場合はセット料金で仕上げ¥14,000、切替車¥36,500です。配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。

耐久性が高いとされるロレックスでも経年による劣化や摩耗はあります。ゼンマイを巻けば使えるからとついつい長期間メンテナンスをせずに使い続ける方も多くいらっしゃいますが、いよいよ動かなくなった時にメンテナンスを行おうとしたら交換パーツが多く必要になったり、当店で入手困難なパーツが判明して高額なメーカー修理しか方法がない場合も珍しくありません。本当に最悪の場合はメーカーでもパーツ入手ができず時計の寿命（修理不可）になることもあります。
長期間メンテナンスをしていない心当たりのある方は致命傷になる前にぜひ当店にご相談ください。