ジン 856.UTC オーバーホール

担当者コメントと修理のポイント

今回ご紹介する修理事例はSinnの856.UTCです（画像1）。
こちらのジン 856.UTCはメンテナンスを終えて下記リンクにて販売中ですので宜しければご覧ください。

パイロットのためにコックピット内での視認性を追求したダイアルはマットブラック地にホワイトの目盛りと、先端側のみをホワイトにした針との組み合わせによりコントラストが際立ち一目で確認ができます。
通常の針の他に追加されたUTC（デュアルタイム）機能のイエロー針も鮮やかです。
マグネチック・フィールド・プロテクションにより80,000A/ｍまでの防磁性を備えたケースは身の回りに磁気の多い現代でも安心してご使用になれます。

こちらの856.UTCは渋谷本店でお買取りさせていただき、販売前のメンテナンスのためにアフターサービス部へ回ってきた1本です。
裏蓋に打刻されたシリアルから推測すると製造は2006年ごろです。経過年数に比べて外装の程度が良くガラスコーティングに多少の劣化がある程度で目立つ傷はなく、計測器上の精度も特に問題はありませんでした。

裏蓋を開けてみると搭載しているETA Cal.2893-2は2006年製と製造から長期間経っているにもかかわらず油切れをしていませんでした。
外装の程度が良いことと併せて考えるとどこかでオーバーホールをしているのかもしれませんが、お買取りの際に話もなく作業時のサインもないため、当店に正確なことはわかりません。 残っている油をさらによく見てみると少し劣化して見えたため、ご購入されたお客様が安心してお使いいただける様に部分的なメンテナンスではなくオーバーホールをすることとしました。

Cal.2893はCal.2892にUTC（デュアルタイム）機能を追加したムーブメントです。
針とダイアルを外すと歯車が数点追加されていることがわかります（画像2）。
画像の赤丸で囲った部分に追加されたパーツが取付けられています。歯車が追加された他にも日付け早送り車はUTC機構の早送りもできる様に形状を変更されています（画像3）。
矢印で指し示した小さな凸部分がUTC機構の早送りをするのですが、凸部があまりに小さいため少し摩耗しただけで機能しなくなることがあります。今回は磨耗もなくきれいな状態でしたのでまだ長くお使いいただけそうです。

全体を分解してみるとパーツの磨耗などはありませんでしたが、始めに気がついた以上に油が劣化していました。外装の状態や内装の状態を合わせて推測すると、ご購入後ほとんど使われずに保管されていたのでしょう。しっかりと洗浄をして古い油を洗い流し、組み立てと注油を行いましてオーバーホール前よりスムーズに動作をするようになりました。ケーシング後のランニングテストでもよい精度を記録できましたのでオーバーホールを完了としました。

こちらのジン 856.UTCをお客様からお預かりした場合はオーバーホール基本料金が29,000円～(パーツ代金別途)。
外装仕上げを追加の場合はオーバーホールとのセット料金で9,000円です。

ご使用中の精度が気にならないからとメンテナンスをせずにお使いになられる方もよくお見かけします。ご使用になっているなら当然のこと、お使いにならなくとも経年により内部状態は刻一刻と変化しています。油の劣化した状態でご使用になるとパーツにダメージが入りやすく、目に見える不調が起きたときには大量のパーツ交換が必要な事も珍しくはありません。
長期間メンテナンスをされていないと心当たりのある場合はぜひ当店にご依頼ください。