ジン 856.S.SG オーバーホール・ネジ取付け
ジン (中古) を買うなら宝石広場| 「宝石広場」(housekihiroba.jp)
私が担当しました
宝石広場修理部スタッフ。時計修理技師。時計修理業界歴約20年。
時計の状態確認/点検/判定/故障個所の修理などの技術的な対応から、接客/見積もりまで幅広く担当。
1つ1つの時計に丁寧に向き合い、お客様のお手元に良い状態でお戻し致します。
是非お気軽にお問合せください。
856.S.SG|ジン 856.S.SGのオーバーホール・修理|腕時計のオーバーホール・修理なら【宝石広場 時計修理センター 渋谷】
担当者コメントと修理のポイント
今回ご紹介する修理事例はジン ref.856.S.SGです(画像1)。
UTC機能を持ちPVD加工を施した856.Sのドイツ連邦刑事局のSG(セキュリティーグループ)モデル。ダイアルの6時位置にはロゴマークがプリントされています。ジンを象徴する3つのテクノロジーである、マグネチック・フィールド・プロテクション、Arドライテクノロジー、テギメント加工も備え、実用時計としてトップレベルの性能を誇ります。
渋谷本店にてお買い取りさせていただいた後、アフターサービス部に販売前のメンテナンスを依頼されてきた1本です。外装は擦れ跡がついている程度でしたが、内部は手巻きを行っても不動でした。
ムーブメントはETA Cal.2893-2です(画像2)。
裏蓋を開けてまず画像2の矢印箇所のネジが1本ないことに気が付き、外れたネジがどこかに引っかかったことが不動の原因かと推測しました。そこで始めに目視できる場所を探し、次に考えられる限りのネジが入り込める箇所の分解も行いましたが見つかりませんでした。ネジは小さなパーツですが入り込める箇所は限られており、分解しても見つからないため買い取り前に紛失されたものと判断しました。当店での作業履歴はないため何故このような状態なのかわかりませんが、ネジがないままになっている状態を考えるとしっかりとしたメンテナンスがされているとは思えません。他にも破損や紛失がある想定でオーバーホールを進めることとしました。
針と文字盤を外したところです(画像3)。
裏蓋側はCal.2892との差はありませんが、文字盤側にはUTC機構のために3つの歯車が追加され、1つの歯車には変更が加えられています。追加パーツが重なりムーブメント全体が厚くなるため、そのままでは文字盤と歯車が擦れてしまいますので文字盤とムーブメントの間に矢印のパーツを追加して高さを確保しています(画像4)。
全てのパーツを分解し終えても不動の原因となる決定的な要因は見当たりませんでした。洗浄・注油・組立てを進める途中で輪列を回すと分解時はぎこちなかった回転もスムーズになりましたので、全体的な油の劣化によるものと判断しました。紛失していたネジは新たに取り付けし、計測器・実測ともに良好な精度を記録できたため後日販売される予定です。
こちらのジン ref.856.S.SGをお客様からお預かりしていた場合はオーバーホール基本料金が29,000円です。
修理のご依頼は他店にてご購入されたお時計でも承っております。配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。
時計には多くのネジが使われていますが長期間メンテナンスをせずにいると徐々に緩んでしまうこともあります。
今回ご紹介したジン ref.856.S.SGは油の劣化が不動の原因でしたが、外れたネジは歯車に引っかかって止まることもあればムーブメント内部で暴れて傷つけることもあり、留めていたパーツが外れると大きな損傷が起きてカスが内部に散らばることで止まる場合もあります。また目に見える症状がなくとも内部の油は徐々に劣化し汚れていきます。劣化した油でご使用されることで内部パーツは加速度的に摩耗が進むこともあり、オーバーホールをご依頼いただいたときには大量のパーツ交換が必要なことも珍しくはありません。
お心当たりのある場合は不調の起こる前にぜひ当店にご依頼ください。