タグホイヤー アクアレーサー キャリバー5 オーバーホール・外装仕上げ・ゼンマイ交換

担当者コメントと修理のポイント

今回ご紹介する修理事例はタグホイヤー アクアレーサーキャリバー5です（画像1）。
抜群のコストパフォーマンスと300mもの防水を誇るプロフェッショナルダイバーウォッチです。強靭な印象の12角形のダイビングベゼルには6個の突起が設けられており、グローブを着けたままでの操作性もとても良好です。40.5mmという絶妙なケースサイズでTPOを選ばず使いやすいモデルではないでしょうか。
既に販売ずみですが、こちらと記事下部のリンクにて販売しておりましたので、宜しければご覧ください。

こちらのタグホイヤー アクアレーサーキャリバー5は2018年に当店が販売した時計のお買い戻し品です。
販売前のメンテナンスを行うためにアフターサービス部へ回ってきました。外装はご使用期間なりに傷がついており、動作状態を確認するため手巻きを行いましたが不動でした。その際手巻きの感触がとても軽かったため、ゼンマイが切れていると予想し作業に取り掛かりました。

搭載しているムーブメントはETA Cal.2824-2をベースにしたCal.5です（画像2）。
まずはゼンマイが実際に切れているのかを確認するため、自動巻き機構を外した状態で手巻きを試してみました。ゼンマイ切れ以外にも自動巻き機構のネジ緩みにより歯車が浮いていたり、巻き上げの歯車が欠けていたりと様々な要因で手巻きへの力が空振りして軽くなることがあります。このように本格的にオーバーホールを行う前に目視での確認もしております。

リューズからゼンマイまでの力が伝わる経路に破損や噛み合い外れはなく、当初に予想した通り不動の原因はゼンマイ切れと確定できました。ゼンマイ切れが起きたとき香箱に蓄えられた力が一気に解放されることでムーブメントに大きな衝撃として伝わりますので、香箱の歯やそれ以降の輪列に破損が起きていることも考えられます。そのため分解の際はより丁寧に各所の位置関係に変化の跡がないか、歯車に欠けや歪みがないか確認しましたが、幸い再調整や交換が必要な変化はありませんでした。

ゼンマイが収められている香箱をムーブメントから取り出し、ゼンマイの状態を確認しました（画像3）。
香箱内のゼンマイが矢印で指した箇所で切れているのがわかりますでしょうか。ゼンマイ切れが起きた際、多くの場合はここで切れてしまいます。ゼンマイが何度も巻上げと力の解放を繰り返すことで変化の大きい箇所が金属疲労により折れてしまいやすいようです。
青い部分の中にあるものが新しいゼンマイです（画像4）。
収められた状態で香箱の内径よりほんの少しだけ小さく作られています。そのため新しいゼンマイの組み付けは洗浄・注油した香箱内に青い部分から押し出すだけで入りますので実はゼンマイを再利用するより簡単です｡
洗浄・注油・組立てにて良好な計測値と実測値を記録できましたので、オーバーホールを完了としました。

こちらのタグホイヤー アクアレーサーキャリバー5をお客様からお預かりしていた場合はオーバーホール基本料金が26,000円、別途ゼンマイが6,500円、オーバーホールと一緒に外装仕上げをご希望の場合はセット料金で11,000円です。
修理のご依頼は他店にてご購入されたお時計でも承っております。配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。

今回のようなゼンマイ切れは前兆なく急に起きることがほとんどで、お使用者様に全く心当たりがないことも珍しくありません。金属疲労だけでなく製造過程の熱処理が原因のこともありますので使用期間にも関係がありません。動力源のゼンマイが切れてしまうので時計は完全に不動になってしまいます。ゼンマイ以外のパーツに影響がない場合もありますが、歯車の変形、欠け、時には軸が折れてしまうこともあります。
お心当たりのある場合はぜひ当店にご依頼ください。