Sinn 657 オーバーホール、ゼンマイ交換 公開日:2025/10/13 最終更新日:2025/11/10 腕時計修理内容 ブランド名 Sinn モデル名 657 型番 ref.657 修理内容 オーバーホール、ゼンマイ交換 修理料金 ¥32,500-(税込) ※事例公開時の価格となります。 修理時間 お見積り2~3週間、ご了承いただいてから4~6週間 症状タグ 定期メンテナンス部品劣化/破損 画像1 時計の正面 画像2 裏蓋側ムーブ 画像3 ゼンマイ内端の変形 画像4 ゼンマイ交換後 担当者コメントと修理のポイント この度は、Sinn(ジン)の657のオーバーホールを実施いたしました。 657は、視認性と機能性を追求したパイロットウォッチの系統に位置づけられるモデルです。その最大の特長は、ジンの哲学である「機能性の追求」に基づいた、実用性の高い仕様に集約されています。まず、ベゼルには一般的なはめ込み式ではなく、ベゼル周囲のリングをネジで押さえ込むジン独自の特殊結合方式を採用しています。これにより、強い衝撃を受けてもベゼルが外れることがなく、パイロットウォッチとして高い信頼性を確保しています。文字盤は、ジンの基本モデル656の系統を踏襲した、コックピットクロックを彷彿とさせるシンプルで視認性の高いデザインです。風防には両面無反射サファイアクリスタルを採用し、光の反射を抑えてあらゆる環境下での時刻の読み取りやすさも追及されています。 直近の作業が不明な時計の場合、オーバーホールが必要かどうかの判断は内部の油の有無や状態、鉄粉の発生などを確認します。周辺の部品の状態、触れ合う部分の摩耗の度合いを見極め、鉄粉が出ている場合は発生源であるパーツは交換の可能性が高く、近い将来には時計そのものの致命的な破損につながることもあるため早急なオーバーホールを推奨しています。一方で、鉄粉が確認されない場合には、歯車のホゾ(軸)の油やアンクルの爪部分の油を重点的に確認します。これは油の劣化や量の減少が見られる場合に、潤滑性能が機能せず時計を正常に動かす力としては不十分で時計本来の性能が発揮されません。また、将来的なホゾの摩耗につながる恐れがあるためオーバーホールとする目安としています。 今回のジンを点検したところ、油の劣化はあるものの鉄粉の発生はなく歯車や軸受けなどの状態は良好でした。しかし、ムーブメントを分解しただけでは見えない部分に問題を発見しました。香箱を開けたところゼンマイが劣化(画像3 赤丸部分にの角のある曲がり)していたため、オーバーホール後でもトルク不足や突然ゼンマイが切れる可能性が高いと想定されゼンマイは交換としました。 ゼンマイの交換後(画像4)、ムーブメントの組み直し・注油を行い、動作を確認。精度も安定しており、振り角も全体的に安定してしっかりとした動きを取り戻しています。もし古いゼンマイのまま使用を続けていれば、遠からずパワーリザーブの極端な低下や最悪はゼンマイが突然破断し、時計が止まるだけではなく一気に解放されるゼンマイの力が周辺のパーツを破損させる可能性が非常に高かったため、定期オーバーホールとゼンマイ交換で大きなトラブルを未然に防ぐことができました。 外装部分に関してはケース、ブレスレットのステンレス部分にテギメント加工という特殊な加工がされています。ジン独自の表面硬化技術で、時計のケースやブレスレットの表面を化学的・電気的処理によって硬化させる方法です。これによりステンレス素材の表面硬度が約1200ビッカースまで高まり、通常のステンレス(約200ビッカース)に比べて大幅に耐傷性が向上します。つまり、日常使用での擦り傷や打痕に非常に強く、美しい外観を長く保つことができます。テギメント加工が施されているからといって、研磨(仕上)ができないわけではございませんが、表面の硬化層が削れてしまう可能性があり、加工後の風合いも変化する場合があります。 今回の時計をお客様からお預かりした場合の料金は、オーバーホール¥26,000、ゼンマイ交換¥6,500、総額¥32,500 となります。 当店は渋谷で長く実店舗を構え、年間6,000本の修理実績がございます。当店でご購入のお時計でなくてもオーバーホールを承っております。配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。 ジン(中古)|腕時計専門の販売・通販「宝石広場」 ジン Sinn|腕時計専門の販売・通販「宝石広場」 私が担当しました 修理担当した時計 私が担当しました sasaki_yuya@ushouseki.xsrv.jp 03-5458-5424 HOUSEKIHIROBA 佐々木 時計修理歴10年以上の技術者が、お時計の不具合や専門的なご相談にお答えします。 勿論修理作業も担当しておりますので、安心してお任せください。 修理担当した時計 Sinn 657 By 佐々木 2025年10月13日 IWC ポルトギーゼ・クロノグラフ By 佐々木 2025年8月14日
担当者コメントと修理のポイント
この度は、Sinn(ジン)の657のオーバーホールを実施いたしました。
657は、視認性と機能性を追求したパイロットウォッチの系統に位置づけられるモデルです。その最大の特長は、ジンの哲学である「機能性の追求」に基づいた、実用性の高い仕様に集約されています。まず、ベゼルには一般的なはめ込み式ではなく、ベゼル周囲のリングをネジで押さえ込むジン独自の特殊結合方式を採用しています。これにより、強い衝撃を受けてもベゼルが外れることがなく、パイロットウォッチとして高い信頼性を確保しています。文字盤は、ジンの基本モデル656の系統を踏襲した、コックピットクロックを彷彿とさせるシンプルで視認性の高いデザインです。風防には両面無反射サファイアクリスタルを採用し、光の反射を抑えてあらゆる環境下での時刻の読み取りやすさも追及されています。
直近の作業が不明な時計の場合、オーバーホールが必要かどうかの判断は内部の油の有無や状態、鉄粉の発生などを確認します。周辺の部品の状態、触れ合う部分の摩耗の度合いを見極め、鉄粉が出ている場合は発生源であるパーツは交換の可能性が高く、近い将来には時計そのものの致命的な破損につながることもあるため早急なオーバーホールを推奨しています。一方で、鉄粉が確認されない場合には、歯車のホゾ(軸)の油やアンクルの爪部分の油を重点的に確認します。これは油の劣化や量の減少が見られる場合に、潤滑性能が機能せず時計を正常に動かす力としては不十分で時計本来の性能が発揮されません。また、将来的なホゾの摩耗につながる恐れがあるためオーバーホールとする目安としています。
今回のジンを点検したところ、油の劣化はあるものの鉄粉の発生はなく歯車や軸受けなどの状態は良好でした。しかし、ムーブメントを分解しただけでは見えない部分に問題を発見しました。香箱を開けたところゼンマイが劣化(画像3 赤丸部分にの角のある曲がり)していたため、オーバーホール後でもトルク不足や突然ゼンマイが切れる可能性が高いと想定されゼンマイは交換としました。
ゼンマイの交換後(画像4)、ムーブメントの組み直し・注油を行い、動作を確認。精度も安定しており、振り角も全体的に安定してしっかりとした動きを取り戻しています。もし古いゼンマイのまま使用を続けていれば、遠からずパワーリザーブの極端な低下や最悪はゼンマイが突然破断し、時計が止まるだけではなく一気に解放されるゼンマイの力が周辺のパーツを破損させる可能性が非常に高かったため、定期オーバーホールとゼンマイ交換で大きなトラブルを未然に防ぐことができました。
外装部分に関してはケース、ブレスレットのステンレス部分にテギメント加工という特殊な加工がされています。ジン独自の表面硬化技術で、時計のケースやブレスレットの表面を化学的・電気的処理によって硬化させる方法です。これによりステンレス素材の表面硬度が約1200ビッカースまで高まり、通常のステンレス(約200ビッカース)に比べて大幅に耐傷性が向上します。つまり、日常使用での擦り傷や打痕に非常に強く、美しい外観を長く保つことができます。テギメント加工が施されているからといって、研磨(仕上)ができないわけではございませんが、表面の硬化層が削れてしまう可能性があり、加工後の風合いも変化する場合があります。
今回の時計をお客様からお預かりした場合の料金は、オーバーホール¥26,000、ゼンマイ交換¥6,500、総額¥32,500 となります。
当店は渋谷で長く実店舗を構え、年間6,000本の修理実績がございます。当店でご購入のお時計でなくてもオーバーホールを承っております。配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。