シャネル J12 オーバーホール
私が担当しました
宝石広場修理部スタッフ。時計修理技師。時計修理業界歴約20年。
時計の状態確認/点検/判定/故障個所の修理などの技術的な対応から、接客/見積もりまで幅広く担当。
1つ1つの時計に丁寧に向き合い、お客様のお手元に良い状態でお戻し致します。
是非お気軽にお問合せください。
H2981|シャネル J12のオーバーホール・修理|腕時計のオーバーホール・修理なら【宝石広場 時計修理センター 渋谷】
年内の営業は12月31日 18時まで|年始は1月3日より通常営業(本店のみ)とさせていただきます。⇒ 詳細
担当者コメントと修理のポイント
他店で購入し5年ほどお使いになったお時計がすぐに止まるようになったということで修理キットにて渋谷店にオーバーホールのご依頼をいただきました。
お時計はシャネルのJ12 Ref.H2981です(画像1)。
J12が発表された2000年当時、ほぼ全面にセラミックを採用したケースは驚きをもって迎えられました。
それまでセラミックのイメージは硬度が高いことで傷が付きにくく経年変化も少ない反面、時計のような正確で複雑な形状への加工が困難なことと腕につけることで外的要因を受けやすい過酷な環境下では割れることもあるため、一部のメーカーを除いてケースの素材として採用されることはほとんどありませんでした。
複雑な形状を実現したJ12の大ヒットによって金属一辺倒だった時計に光沢のある黒や白の目新しさと、加えて使っていても傷が付きにくいことでセラミックに対するネガティブなイメージが払しょくされ、その後は他メーカーでも次々と採用されてケース素材のバリエーションの一つとして定着した感があります。
ブランドイメージカラーの黒または白を基調にしたデザインはシャネルを代表するモデルとして定着し、様々な派生モデルも生まれて今も多くの人々に愛され続けています。
今回のJ12は一見すると通常モデルにしか見えませんが、ムーブメントは多くが搭載しているETA 2892ではなくソプロードのCal.A10です。
42mmケースのJ12はある一定の年代にのみこのムーブメントを搭載しています。
正確なところはわかりませんが、おおよそ2012年~2015年ごろの少し薄型の個体に搭載されていたようです。
時期的にはETAの2010年問題が話題にあった頃です。
ETA Cal.2892の互換として設計されたとも言われ、かつてはセイコーのクレドールに搭載されていたCal.4Lが製造会社と名前を変え生まれたのがCal.A10ですので、ETA問題を解消するためJ12の標準搭載ムーブメントETA Cal.2892の後継として採用されたのではないかと考えています。
セイコーからソプロードに製造が移るまでにどのような経緯があったのかわかりませんが、今ではCal.M100(A10-2)として製造されています。
このムーブメントで個人的に大きな特徴だと思っている点が1つあります。
まずは画像2.3.4をご覧ください。
それぞれ、画像2はムーブメント単体、画像3はローターを外したところ、画像4は巻上げ中間車を外したところです。
画像2のムーブメント単体を一見した時にはなんの変哲もない(とはいえ薄型の)ムーブメントに見えます。
画像3ではネジ3本を外してローターを外したところです。赤丸で囲ったパーツは巻き上げ中間車と呼んでいる歯車で、ローターの回転をはじめに受け止める歯車です。
この巻上げ中間車は地板に直接立てられた軸に歯車を取り付けした後、クリップのようなパーツで抜け止めをしています。
画像4は巻き上げ中間車を取り外したところです。
赤丸で囲ったパーツはガンギ車の歯先です。画像で見るだけでも巻き上げ中間車の軸と非常に近い位置にある事がわかりますでしょうか。巻き上げ中間車が取り付けられるとよりガンギ車との隙間は小さくなります。
薄型のムーブメントを作る為に部品間の隙間を徹底的に削った結果なのだろうと思います。
どんなムーブメントでも無駄な隙間などないように設計されていますが、個人的にはここまで自動巻きの歯車とメイン輪列の歯先が近いものは多くはなく大きな特徴だと考えています。
薄型のムーブメントですので各部の調整などは多少難しいものの作業に特殊なポイントはなく、一つ一つの作業を確実に進めることでしっかりと動作をするようになります。全体的な油の劣化などはありましたが部品交換はなく、ご依頼のオーバーホールのみでお渡しすることができました。
N様 ご依頼ありがとうございました。