ジャガー・ルクルト マスターコントロール メーカーオーバーホール・ガラス交換・外装仕上げ

担当者コメントと修理のポイント

今回ご紹介する時計はジャガールクルト マスターコントロールです（画像1）。
いわゆる“デカ厚時計”のブームにより腕時計全般が大きくなりましたが、クラシカルな３針タイプの時計では間延びした感じがあったのも確かです。マスターコントロールは、敢えて前作の４０ｍｍのケース径を３９ｍｍに縮小し、大き過ぎず小さ過ぎない絶妙なバランスにより、スポーティーかつクラシカルな雰囲気を両立させました。優雅なドルフィンハンドを採用し半分にサンドブラスト加工を加えることで視認性は良好です。

こちらは渋谷本店でお買取りさせていただき、販売前のメンテナンスを修理センター渋谷が依頼された一本です。付属品はありませんが当店で記録している同モデルの履歴から2017年以降に製造された個体と推測しました。
外装に傷が多く、特にガラスの中央に大きな傷がありました（画像2）。ガラスの傷は白く見えるので透かして見える文字盤の色や仕上げよって見え方が変わります。例えばホワイト文字盤なら傷と文字盤色が近いため目立ちづらいのですが、ブラック文字盤だと目立ってしまいます。
機能的に問題がなく美観的に影響しない場合はそのままで販売することもありますが、今回は目立つためガラス交換になりました。ガラスは入手できないため、メーカーでメンテナンスが必要です。多くの場合はガラス交換だけではなくオーバーホールも必須となり高額になってしまいます。

裏蓋ガラスからは搭載しているCal.899を見ることができます（画像3）。Cal.889をベースにいくつかの変更を加えて2005年にリリースされたムーブメントです。
変更点はテンプのフリースプラング化、ローターベアリングのボールにセラミックを採用、スイッチングロッカー式の自動巻き機構をシンプルな片巻きへ変更（画像4）など。2019年に次世代のCal.899ACが発表されるまで採用されていました。ちなみにCal.899ACはシリコン製脱進機を採用していますので、分解しなくとも確認ができます。今回のマスターコントロールはCal.899なので、はじめの推測と合わせると2017～2019年の間に製造されたものです。

ガラスの傷を見ると大きな衝撃を受けたことは間違いありません。メーカーオーバーホールはある程度までのパーツ交換が含まれますが、天真の折れや文字盤の足折れがある場合はモデルによって数十万円かかることもありますので、念のため特別高額になるパーツの破損の有無を確認しました。幸い文字盤や天真に破損はなく、その後のメーカー見積りは基本料金のみでした。
高額なメーカー修理ですが、もちろんメリットも多数あります。自社製ムーブメントのパーツ交換が確実にできることや、ある程度はパーツ料金も含まれていること、水入りなどの壊滅的なダメージがあり大量のパーツが交換になる場合はメーカー対応が必須であり、逆に言えば金額面に目をつぶれば必ず直すことができます。また修理後に2年間の保証期間が付くも大きなメリットで安心感があります。

こちらのジャガー・ルクルト マスターコントロールをお客様からお預かりしていた場合はメーカーオーバーホール¥79,040、ガラス¥34,760の合計¥113,800です。※事例公開時の価格となります。
当店でご購入の時計は手数料なしでお取次ぎ可能ですが、他店で購入された時計の場合は代行手数料¥15,000を頂きます。
配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。

ガラスの様な外装パーツは入手が難しく、高額なメーカー修理が必須になります。また固いガラスが傷つくということは内部に強い衝撃が伝わっているということです。不動までならなくとも油が飛散したり軸が曲がると本来の動きができないため精度は悪化します。そのまま放置して使い続けた場合、動かなくなった時にガラス交換なしで当店工房のオーバーホールを行おうとしても入手困難な内部パーツの交換が判明してメーカー修理しか方法がない場合も珍しくありません。
心当たりのある方は致命傷になる前にぜひ当店にご相談ください。