パネライ ルミノールGMT オーバーホール、外装仕上げ、パッキン・ゼンマイ・切替車交換

担当者コメントと修理のポイント

今回ご紹介する修理事例はパネライのL番“2009年製”「PAM00297」ルミノールGMTです（画像1)。
こちらは「PAM00161」の後継モデルです。GMT針を1時間単位で単独に動かせますので、二か国の時間帯を容易に確認できます。
メンテナンスを終えてこちらにて販売しておりますので、よろしければご覧ください。

こちらのパネライ ルミノールGMTは渋谷本店にてお買取りさせて頂き、販売前に修理センター渋谷がメンテナンスの依頼を受けた一本です。全体に傷があり、ラグなど複数カ所に外装仕上げを行っても残りそうなほど深い打痕がありました。ギャランティーの記載は2009年12月ですので製造されてから10年以上経過しています。
傷と打痕について特に気になる箇所はラグとガラスです。今回のパネライ ルミノールGMTはラグの裏側にプッシュボタンがあり、これを押すことでストラップを留めているピンの引っ掛かりを解除し抜くことができます。ラグの穴はぶつけやすい時計表面側(画像右下方向)の肉厚がデザインの関係上薄くなっており、衝撃を受けた際に凹んでしまい穴が変形することがあります（画像2）。変形が大きいほどピンが圧迫されてすんなり抜けなくなります。以前に経験した個体ではピンを強く叩いても抜けないほど変形していたものもありました。今回のパネライ ルミノールGMTにある打痕はピンの入る穴から少し離れていたため影響はありませんでした。ガラスなどの外装部品は入手ができないためパネライへ修理依頼をしなくてはなりません。ガラス代に追加してメンテナンスも必須項目に挙げられ、費用が高額になります。今回はガラスの縁に目を凝らさないと見えない小さな欠けがある程度で目立たないこと、防水性能にも影響がないことから交換せずに進めました。
外装の点検を終えてリューズ操作による動作確認を行いました。少しリューズを回すとグリス切れのため操作が重く、手巻きをするとローターが連れ回りしていました。外装の状態を考慮すると内部もメンテナンスはされていないと判断し、リューズ操作による状態確認は早々に切り上げて内部を点検することにしました。

Cal.OP Ⅷ(Cal.A05571)は7750系からクロノグラフ機構を取り払いスモセコの時計として再構築され、GMT機構を追加しコート・ド・ジュネーブやペルラージュ仕上げを施したムーブメントです。ほとんどの箇所の油が無くなるか変質し切替車の周辺は摩耗粉が散らばっていたため、裏蓋を開ける前に推測した通りオーバーホールが必要と判断しました。テンプの油がご使用中の衝撃により画像の右手方向に流れていました（画像4）。本来、油は赤いルビーの中央に円状に留まっていますが衝撃を受けると今回の様に流れてしまうことがあります。

外装の点検時から推測していましたが内部の状態も悪く、多くのパーツ交換が必要な状態でした。あまりにパーツ交換が多いと当店工房でオーバーホールを行うよりもメーカーの方が安くなる場合もあります。特に今回の修理事例は衝撃があったことが明白ですので、油の流れていたテンプ以外にも各種の軸が曲がったり歯車の噛み合いがズレている可能性がありました。慎重に分解を進めつつ念入りにパーツの状態確認を行いました。全てのパーツを分解し状態確認を終えると経年劣化していたゼンマイ・パッキンと摩耗した切替車は交換が必要でしたが、他に交換が必要なパーツはありませんでした。パーツの交換と衝撃によりズレた歯車の噛み合い調整の後、洗浄・注油・組立てを行うと良好な精度を記録しました。
外装の仕上げを終えてこちらにて販売しておりますので宜しければご覧ください。

こちらのパネライ ルミノールGMTをお客様からお預かりしていた場合はオーバーホール基本料金¥35,000、オーバーホールと一緒に外装仕上げをご希望の場合はセット料金で仕上げ¥14,000、ゼンマイ¥6,500、切替車¥7,000です。
配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。

今回のパネライの様に大ぶりなモデルは一見すると頑丈に見えますが、前述したようにストラップを留めるラグ部分をぶつけてしまうとピンが圧迫されて抜けなくなることも多くあります。また内部に搭載されているムーブメントは繊細なパーツの集合体です。テンプや歯車の軸などは直径が1ｍｍ以下と細いため、衝撃を受けると当たり所が悪ければ折れて不動になってしまいます。不動までならなくとも油が飛散したり軸が曲がると本来の動きができないため精度は悪化します。油が規定に足りない、軸が曲がっている、アガキのズレなどを放置して使い続けた場合、動かなくなった時にメンテナンスを行おうとしたら当店で入手困難なパーツが判明して高額なメーカー修理しか方法がない場合も珍しくありません。本当に最悪の場合はメーカーでもパーツ入手ができず時計の寿命（修理不可）になることもあります。
お心当たりのある方は致命傷になる前にぜひ当店にご相談ください。