IWC マーク15 オーバーホール、外装仕上
私が担当しました
宝石広場修理部スタッフ。時計修理技師。時計修理業界歴約20年。
時計の状態確認/点検/判定/故障個所の修理などの技術的な対応から、接客/見積もりまで幅広く担当。
1つ1つの時計に丁寧に向き合い、お客様のお手元に良い状態でお戻し致します。
是非お気軽にお問合せください。
IW325307|IWC マーク15のオーバーホール・修理|腕時計のオーバーホール・修理なら【宝石広場 時計修理センター 渋谷】
担当者コメントと修理のポイント
前回のご依頼から4年ほどたち調子はいいけれど定期メンテナンスを行いたいということで、再び渋谷店へご来店いただきました。
お時計は IWC中期型ブレスレットのマーク15です(画像1、2)。
中期型ブレスレットということを強調したのはマーク15のブレスレットには3種類あり、それぞれ大きく形が変わっているからです。
初期型は型番がref.325302で11連ブレスレット、中期型と後期型は型番がref.325307で5連ブレスレットを採用しています。
中期型と後期型は同じ型番で5連ブレスレットですが、駒の形状が丸みを帯びたものが中期型、平面的なものが後期型とはっきり形が変わっています。
初期型と中期型・後期型の大きな違いとして、11連ブレスレットと5連ブレスレットという違いの他に駒の調整方法が変更されています。
初期型は駒を両ネジで取り付ける比較的一般的な方法ですが、中期型と後期型に関してはある特殊な方法が採用されています。
その”ある特殊な方法”がこのブレスレットの最大の特徴でして、簡単にブレスレットの長さ調整ができるのです(画像2)。
赤矢印で指したボタンを押すことでブレスレットの駒を留めているピンを押して取り外すことができるようになっています。
大まかなボタンとピンの構造を描いてみましたので画像3をご覧ください。
パーツ構成はごく単純でバネ、ボタン、枠、ピンの4つのパーツで作られています。
バネがボタンを常に押し上げていますので、ボタンが外れないようにブレスレットの駒に枠が固定されています。
ボタンの中ほどとピンの先端近くには凹みがあり普段はピンの凹みにボタンがはまりピンは抜けなくなっています。
ボタンを押すとボタンの凹みとピンが同じ高さになるためピンの通り道ができ、横から押すとピンを抜くことができるようになります。
非常によくできたブレスレットですが一つだけ注意点としてお手入れをかかさないようにしてください。
お手入れというと面倒な印象がありますが、ご使用後の拭き取りや専門店に定期的な洗浄をご依頼いただくなどを行っていただければ大きな問題にはなりません。
もし汚れを放置してしまいますとボタン内部の隙間に汚れが詰まりボタンが押せなくなったり、さらには汚れが錆を呼び込む原因になることもあります。
もちろん他のブレスレットも汚れや錆は大敵ですが、なぜこのブレスレットには特段の注意が必要かといいますとパーツが小さくボタン内部が袋小路のため錆びた時の影響が大きいからです。
まず前提として枠は駒に固定されているため取り外しはできず、壊さない限りボタンの分解は出来ません。また、パーツを紛失や再利用が出来ない状態になっても個別に入手することはできません。さらに枠が錆びると圧入で取り付けられた枠の取り付けが弱くなり外れることがありますが、多くの場合で外れた枠は錆によって腐食し再利用はできません。バネが汚れや錆で劣化しますとボタンを押したあと戻ってきませんし、ボタンが錆びますと内部で食いつき押すことができなくなってしまいます。
こういった様々な理由から錆びが酷くなってしまいますと最低でも駒ごと交換、最悪の場合は固定駒含めたブレスレット一式の交換が必要になる事があるのです。
腕の装着感もよくブレスレットの長さ調整が簡単にできる非常によいブレスレットではありますが、ネジのようにシンプルな調整方法に比べるとパーツが増え汚れが溜まりやすい構造のため拭き取りで表面的な汚れを取り、専門店で定期的に洗浄をおこなうことで内部の汚れをしっかり取るように十分ご注意ください。
お預かりしたお時計も若干固いボタンがありピンにも錆がでていました(画像4)。
ピンも錆がすすみ駒の内側に固着してしまいますとボタンが押せてもピンを押しぬくことができないことがあります。
ご使用後には拭き取りをされていたということでしたが、汗が染みこむなどして見えない駒の内部が少し錆びてしまったようです。
ご依頼いただいたオーバーホールと外装仕上に含めてすべてのブレスレットピンを抜き取ったうえで錆び落としをしてお渡しをいたしました。
T様 ご依頼ありがとうございました。