オメガ シーマスタークロノグラフ オーバーホール・外装仕上げ

担当者コメントと修理のポイント

今回ご紹介する修理事例はオメガ シーマスタークロノグラフです（画像1）。オメガのダイバーウォッチを代表するシーマスタープロフェッショナル。ヘリウムガスエスケープバルブを搭載した本格ダイバーズクロノグラフです。ダイアルには波を模したモチーフが描かれ、海との関連を強く感じさせます。現行モデルはコーアクシャルエスケープメントを搭載していますが、こちらは通常のスイスレバー式。当店が2013年に新品販売したもののお買取り品です。

渋谷本店にてお買取りいたしました後、店頭へ並べる前に宝石広場 時計修理センター 渋谷がメンテナンスの依頼を受けました。販売から今まで当店に作業の履歴がなく10年もの長期間メンテナンスをしていないことになります。リューズ操作やベゼル操作に違和感はなく外装は非常に綺麗な状態だったので他店で外装の仕上げや内装のオーバーホールを行っているのかと想像しましたが、裏蓋とケースにまたがって赤い塗料の封印を見て考えを改めました。（画像2）。現行のモデルではなくなりましたが、スクリューバック式の裏蓋を開けると封印が割れて後から見た人も裏蓋を開けたことがわかるようになっています（画像3）。
時計以外にも未開封の印として手紙やお酒の封蝋であったりゲーム機やパソコンに封印がされていますよね。お買取りや修理のご依頼をいただく時計の中には過去に雑な作業を受けた跡を見かけることもあり、故障の原因が自然発生したものなのか第三者の作業によって起きているのか分からなくなってしまいます。そのため第三者による作業が行われている場合は保証期間内であってもメーカーの保証が失効するだけではなく当店でも保証は無効とさせていただいています。現行のオメガに封印がされなくなってしまったのはコストや工程の省略化、または美観を優先、そして使用するうちに自然と剥がれることも理由になったのではないでしょうか。
今回のシーマスタークロノグラフは封印がそのままだったので今まで内装作業は行われていないと判断しました。外装が綺麗だったことも考慮に入れると使わず保管していたかワインダーで動かし続けたのだと推測しました。たまに誤解されている方がいらっしゃいますが、ワインダーで保管していると腕につけなくとも動き続けますので内部は消耗していきます。長期間になるほど油は劣化していき、そのまま劣化した油で動かし続けると歯車の軸も摩耗してしまいますので内部の状態を見ればある程度は保管状態を類推することができるのです。

搭載しているムーブメントはETA Cal.7750をベースにしたCal.1164Bです（画像4）。
各部をチェックしても摩耗カスもなく油も残っていてネジに作業跡もなかったため新品当時より未作業なのだと判断しました。では一見して綺麗な状態のシーマスタークロノグラフは軽度のメンテナンスで良いかというと、けして良くはありません。たとえば動かすことなく保管していただけだったとしても、10年間もの長期間メンテナンスせずにいたら見た目ではわからない油の劣化がおきています。この状態で使えばすぐに軸の摩耗もおきるでしょうからオーバーホールはしなくてはなりません。分解後に丁寧に古い油を洗い流し、組立てた後で新しい油を注しました。ケーシング後は実測にて調子よい動作を確認できましたので外装仕上げ後に店頭へ並ぶ予定です。

こちらのオメガ シーマスターをお客様からお預かりしていた場合はオーバーホール基本料金が38,000円、オーバーホールと一緒に外装仕上げをご希望の場合はセット料金で20,000円です。
修理のご依頼は他店にてご購入されたお時計でも承っております。配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。

長期間メンテナンスをせずにいるとたとえ使っていなくとも内部の油は徐々に劣化し汚れていきます。劣化した油でご使用されることで内部パーツの摩耗していき、発生した摩耗カスがより摩耗を促進してしまいます。こうした悪循環によって加速度的に状態が悪化してしまい、オーバーホールのご依頼いただいたときには大量のパーツ交換が必要なことも珍しくはありません。また当店で入手困難なパーツ交換が判明して高額なメーカー修理しか方法がないこともあります。
お心当たりのある場合は不調の起こる前にぜひ当店にご依頼ください。