パテック フィリップ カラトラバ オーバーホール・外装仕上げ
腕時計修理内容
ブランド名 | パテック フィリップ |
モデル名 | カラトラバ |
型番 | ref.3919R-001 |
修理内容 | オーバーホール・外装仕上げ |
修理料金 | ¥67,000-(税込) ※事例公開時の価格となります。 |
修理時間 | お見積り3週間、ご返答を頂きましてから作業1.5ヶ月 |
症状タグ | 油切れ遅れる |
今回ご紹介する修理事例はパテック フィリップ カラトラバのオーバーホール・外装仕上げです。
ベゼルとリューズを取外しムーブメントを取出す直前の状態です。リューズを抜かないと3時位置のチューブに巻真が引っかかってムーブメントは抜けません。
ムーブメントを取出して巻真の状態を確認しました。 矢印で指した箇所にジョイントがあります。
搭載しているムーブメントはCal.215PSです。
パテック フィリップ カラトラバ (中古)|腕時計の販売・通販「宝石広場」 (housekihiroba.jp)
パテック フィリップ カラトラバ(新品)|腕時計の販売・通販「宝石広場」 (housekihiroba.jp)
私が担当しました
宝石広場修理部スタッフ。時計修理技師。時計修理業界歴約20年。
時計の状態確認/点検/判定/故障個所の修理などの技術的な対応から、接客/見積もりまで幅広く担当。
1つ1つの時計に丁寧に向き合い、お客様のお手元に良い状態でお戻し致します。
是非お気軽にお問合せください。
担当者コメントと修理のポイント
今回ご紹介する修理事例はパテック フィリップ カラトラバのオーバーホール・外装仕上げです(画像1)。
三十年ほど前はパテックのCMにも使われていたref.3919。当時を知る社員に聞くと日本で定番のref.3796より、海外ではこちらのref.3919の方が人気は高かったそうです。現在でも似たデザインの後継機種に当たるモデルがありますが、このref.3919も程好いケースサイズで根強い人気があります。
こちらは渋谷本店で買取りさせていただいた後、修理センター渋谷が販売前のメンテナンスを依頼された一本です。ref.3919は1986年頃から2006年頃まで生産されたモデルですので、最も新しく製造された個体でも20年近い期間が経過しています。付属品にギャランティーがなく当店にメンテナンスを行った履歴もないので経過した年数を考えると内部の油は経年劣化しオーバーホールが必要な状況のはずです。ただしメーカーや他店で作業が行われていればその限りではありませんので、状態確認はオーバーホールの形跡の有無に重点を置くことにしました。
外装はガラスも含めて小傷が多数ありました。今回のカラトラバは問題ありませんが、ヴィンテージモデルでは華奢なラグが多いため使用しているうちに曲がっていることがあります。
ref.3919のケースは多くの腕時計に採用されているベゼル・ケース本体・裏蓋のスリーピース構造ではなく、ベゼル単体とケース・裏蓋が一体型の特殊なツーピース構造です。一般的なツーピース構造は裏蓋単体とベゼル・ケースが一体型で裏蓋を開けることでムーブメントを見ることができますが、裏蓋がないためムーブメントはケースから完全に取出さないと見ることができません。
今回のようなツーピース構造の時計からムーブメントを取出す際は少しだけ特殊な手順が必要です。一般的にケースからムーブメントを取出すには裏蓋を開け、ムーブメントとリューズを繋いでいる巻真を抜かなくてはいけません。巻真を抜く際はムーブメント側のオシドリピンまたはオシドリネジを操作して抜くのですが、今回のツーピース構造では裏蓋がないためムーブメントにアクセスできません。そこで巻真にジョイント式が採用されています。これは巻真の途中にジョイント(連結部)があり、一定以上の力をかけると連結部から巻真がムーブメント側とリューズ側とに分割できます。何度も取付け・取外しを繰り返すことで連結部分の固定力が落ちてしまい、針回しの際に引いただけで抜けたり、最終的には金属疲労で破損し連結できなくなります。
今回のカラトラバはジョイントに問題がなく、しっかりとした固定力がありました。こちらはベゼルとリューズを取外しムーブメントを取出す直前の状態です(画像2)。リューズを抜かないと3時位置のチューブに巻真が引っかかってムーブメントは抜けません。
ムーブメントを取出して巻真の状態を確認しました(画像3)。矢印で指した箇所に固定のジョイントがあります。取付けの際はムーブメント側の溝にリューズ側の先端を合わせて押し込みます。
搭載しているムーブメントはCal.215PSです(画像4)。防水性が低いクラシカルなモデルは油の劣化や減少が早く進む傾向があります。今回のカラトラバはヴィンテージ品ということもあって防水性には期待できず、現行品より少し早いタイミングでメンテナンスが必要です。ムーブメントに作業の形跡はありますが時間が経過しており油は全くなくオーバーホールが必要な状態でした。製造から長い時間を過ごす間に致命的な扱いを受けたり、幾度も修理を受けるうちに弄り壊されていることもありますので軸の摩耗や衝撃による折れや曲がりに特に注意しつつ分解しました。全てのパーツを分解し終えても交換が必要なパーツはありませんでした。汚れた油を洗い流した後で正確に組立て新しい油を注すと、計測値・実測ともに良好な結果を残せました。外装の仕上げの後で店頭に並ぶ予定です。
こちらのパテック フィリップ カラトラバ ref.3919をお客様からお預かりしていた場合はオーバーホール基本料金¥52,000、オーバーホールと一緒に外装仕上げをご希望の場合はセット料金で外装仕上げ¥15,000です。
配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。
ゼンマイを巻けば使えるからとついつい長期間メンテナンスをせずに使い続ける方も多くいらっしゃいますが、防水性が低いモデルやヴィンテージ品は油の劣化や減少が早く進み、いよいよ動かなくなった時にメンテナンスを行おうとしたらオーバーホールだけでは完調にならず交換パーツが多く必要になったり、当店で入手困難なパーツが判明して高額なメーカー修理しか方法がない場合も珍しくありません。
ご使用にならなくとも経年による油の減少はありますので、長く使うためにも定期的なメンテナンスは必要です。新しい油で潤滑することでパーツの交換を必要最小限にとどめるとともに、パーツ交換を避けやすくなります。そのまま使えば壊れてしまうかもしれませんが、気が付いた時点でメンテナンスをされれば摩耗が軽微で交換が不要になることもあります。
長期間メンテナンスをしていない心当たりのある方は致命傷になる前にぜひ当店にご相談ください。