カルティエ パシャ38グリッド オーバーホール・外装仕上げ
腕時計修理内容
ブランド名 | カルティエ |
モデル名 | パシャ38グリッド |
型番 | ref.W3104055 |
修理内容 | オーバーホール・外装仕上げ |
修理料金 | ¥47,000-(税込) ※事例公開時の価格となります。 |
修理時間 | お見積り3週間、ご返答いただきましてから作業6~8週間 |
症状タグ | 定期メンテナンス油切れ |
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今回ご紹介する修理事例はパシャ38グリッドのオーバーホールです。
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ガラスの縁に曇ったような汚れがあるくらいで綺麗でした。赤矢印でグリッドを取り付ける溝を指しました。
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搭載しているムーブメントはジラール・ぺルゴのCal.3100をベースとしたCal.191です。
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ローターを裏側から見るとローター真と一体になったベアリングや、ベアリングに固定された受け板の作りを見ることができます。
カルティエ パシャ (中古)|腕時計の販売・通販「宝石広場」 (housekihiroba.jp)
私が担当しました
宝石広場修理部スタッフ。時計修理技師。時計修理業界歴約20年。
時計の状態確認/点検/判定/故障個所の修理などの技術的な対応から、接客/見積もりまで幅広く担当。
1つ1つの時計に丁寧に向き合い、お客様のお手元に良い状態でお戻し致します。
是非お気軽にお問合せください。
担当者コメントと修理のポイント
今回ご紹介する修理事例はパシャ38グリッドのオーバーホールです(画像1)。1930年代、パシャ(太守)であったハージ・タミール・エル・メズアリ・エル・グラウィの『自宅のプールで泳ぐ時にも時刻がわかる時計が欲しい』という要望を満たすために開発された「パシャ」。オリジナルテイストを色濃く残す38mmケースのグリッドモデルです。
こちらは渋谷本店にてお買取りさせて頂いた後、宝石広場 時計修理センター渋谷が販売前のメンテナンスの依頼を受けた一本です。メーカーのギャランティーカードがないため正確な販売日は分かりませんが、当店で記録している同モデルの情報によるとおそらく2000年前後のものと推測できました。
外装は汚れが付着し傷もありましたが、製造から経過した期間を考慮すれば綺麗で大きな打痕もありませんでした。ガラスを覆うグリッド(格子状の金属)はパシャシリーズのデザインの原型となった防水時計にも取り付けられていて、デザイン上のアクセントというだけではなくガラスの防護も兼ねています。時計の表示を隠すこともあり視認性はけっして良くはありません。またゴミが溜まりやすいといったデメリットもありますが他の時計にはない見た目はモデル名にもなるほどの特徴となっています。
今回のパシャ38 グリッドはグリッドを外してみるとガラスの縁が少し汚れているくらいで全体としては綺麗な状態でした(画像2)。ところで一般的な腕時計はケースやベゼルよりもガラスの方が高いことが多いのですが、パシャはガラスよりケースが高い作りになっています。またグリッドモデルは画像2の赤矢印で指した箇所には溝があり、ここにグリッドを入れ込み回転させるせることで着脱が可能になっています。溝の奥にしっかりと入れることでロックされるので、着脱が簡単なパーツにありがちな紛失してしまうといったことをほとんど聞いたことがありません。安心してその日の気分で着脱して外観の違いも楽しめます。
話を今回のパシャ38 グリッドに戻します。リューズの操作に違和感はありませんでしたが、計測値は低下していたのでオーバーホールの必要性を想定しつつ点検作業を進めました。といっても、この時点では外装の状態から使用頻度が低かったかメンテナンスが行われている可能性も考えていました。もし直近でしっかりとしたメンテナンスがされている場合はオーバーホールではなく軽微な作業と実測テストで済む場合もあります。
搭載しているムーブメントはジラール・ぺルゴのCal.3100をベースとしたCal.191です(画像3)。Cal.191のベースとなったジラールペルゴのCal.3100はETAの汎用ムーブメントの高さがおよそ3.6mmあるのに対して3.00mm以下と非常に薄く、カルティエ以外にも様々なメーカーが薄型モデルのムーブメントに採用していました。
薄く作られているため繊細なムーブメントで取り扱いには注意が必要です。経験談として始めてCal.3100をオーバーホールした際は組み立ての微妙な力加減だけで調整がズレてしまい修正するのに大変苦労をしました。どんな時計でも丁寧に作業を行っておりますが特に薄型のムーブメントは慎重に作業する必要があります。ローターの近くにある小さい二本のネジで留められた受け板を外すとプレートと一緒にローターが外れます。良い機会ですのであまりネット上でも見かけることのないローターの裏側を画像に撮りました(画像4)。ローターを裏側から見るとローター真と一体になったベアリングや、ベアリングに固定された受け板の作りを見ることができます。
さて今回のパシャ38 グリッドは定期的にメンテナンスをされていたのかパーツに摩耗は見られず交換は不要でした。ただし油は劣化・減少していましたのでメンテナンスされてから年数が経過していると判断。分解・洗浄・組立て・注油のオーバーホールを行い調子よく動作するようになりました。
外装仕上げの後で店頭に並ぶ予定です。
こちらのカルティエ パシャ グリッドをお客様からお預かりした場合、オーバーホール¥35,000~、外装仕上げ¥14,000にて承っております。配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。
定期的にメンテナンスを行い内部を良好に保つことでパーツの交換頻度は減らすことができます。近年は今まで入手出来ていたパーツも入手が難しくなってきておりますので、交換が必要なパーツがが入手できずメーカー修理が必須となってしまうこともあります。またメンテナンスをせずにいるとたとえ使っていなくとも内部の油は徐々に劣化し汚れてしまい、劣化した油でご使用されることで内部パーツの摩耗し、発生した摩耗カスがより摩耗を促進してしまいます。
こうした悪循環によって加速度的に状態が悪化してしまい、オーバーホールのご依頼いただいたときには大量のパーツ交換が必要なことも珍しくはありません。
お心当たりのある場合は不調の起こる前にぜひ当店にご依頼ください。