カルティエ タンク オーバーホール・外装仕上げ
腕時計修理内容
ブランド名 | カルティエ |
モデル名 | タンク |
型番 | ref.W5330003 |
修理内容 | オーバーホール・外装仕上げ |
修理料金 | ¥47,000-(税込) ※事例公開時の価格となります。 |
修理時間 | お見積り3週間、ご返答いただいてから作業1,5ヶ月 |
症状タグ | 定期メンテナンス油切れ |
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今回ご紹介する修理事例はタンク MCのオーバーホール・外装仕上げです。
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搭載されているムーブメントは2010年に発表された自社開発のCal.1904PS-MCです。
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特徴の一つにマジッククリック方式を採用した自動巻き機構があります。
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上の爪は押すときのみ歯車と噛み合い下の爪は弾くときのみ歯車と噛み合います。
カルティエ タンク (中古)|腕時計の販売・通販「宝石広場」 (housekihiroba.jp)
カルティエ タンク(新品)|腕時計の販売・通販「宝石広場」 (housekihiroba.jp)
私が担当しました
宝石広場修理部スタッフ。時計修理技師。時計修理業界歴約20年。
時計の状態確認/点検/判定/故障個所の修理などの技術的な対応から、接客/見積もりまで幅広く担当。
1つ1つの時計に丁寧に向き合い、お客様のお手元に良い状態でお戻し致します。
是非お気軽にお問合せください。
担当者コメントと修理のポイント
今回ご紹介する修理事例はメンズ専用のタンクコレクションとして発表されたタンク MCのオーバーホール・外装仕上げです(画像1)。自社開発の自動巻きムーブメント Cal.1904-PS MCを搭載し、その美しい姿はシースルーバックから鑑賞できます。タンクのデザインに新解釈を加えた正方形に近いフォルムは力強さと共にエレガンスを感じさせ、カルティエならではのメンズモデルに仕上げられています。
こちらは渋谷本店でお買取りし、販売前のメンテナンスを修理センター渋谷が依頼された一本です。ギャランティーカードが付属しますが日付けの記載はないため製造時期がわかりません。そこで当店が記録してきた多くの同モデルと今回の個体の情報を照らし合わせて2017年頃と推測しました。8年間も経過していますので内部の油が劣化しオーバーホールが必要な時期です。ただ当店に今回のタンクの作業履歴がなくともメーカーや他店でメンテナンスを行っているかもしれません。軽メンテナンスで充分な動作が確認できれば販売価格に反映できますので、作業跡の有無に重点を置いて状態確認を進めることにしました。
はじめに外装仕上げの痕跡の有無について確認しました。
痕跡と言っても様々ですが、多くの場合は仕上げの際に少なからず生じるダレとその程度を確認します。ダレというのは平面や角が丸まっている状態のことで”ダレている”とか”ダレがある”と呼んでいます。腕時計の外装は曲面と平面が複雑に組み合わされており、技量の高い作業者ほどダレは小さく目立たないように仕上げますが0にはなりません。また技量の高低とは別に深い傷を完全に除去するとケースの形状も変わってしまうため、意図的に傷を残すこともあります。傷を完全に除去するか残すかは傷の深さだけではなく傷がある場所も絡み、作業者の技術と経験や各お店・メーカーの基準などにより判断されます。当店では傷を完全に除去するよりもケースの形状を優先し、残す傷もできるだけ目立たない様に仕上げを行っています。
今回のタンクは経過期間なりに多くの使用傷がありましたが、仕上げの痕跡はありませんでした。
次にリューズ操作を確認するとパッキンのグリス切れにより操作が渋くなっていました。リューズパッキンのグリス切れはメンテナンスの際に必ずチェックする箇所です。ご使用方法により短期間でグリスが流れ出てしまうこともありますが、外装の状態も考慮に入れて少なくとも数年はメンテナンスを行っていないと推測しました。
搭載されているムーブメントは2010年に発表された自社開発のCal.1904PS-MCです(画像2)。末尾のPSはプチセコンド、MCはマニュファクチュール・カルティエの略です。
元々カルティエはETAなどの汎用ムーブメントをベースにして搭載することが多かったのですが、2001年に新工場を建設しマニュファクチュールを目指します。ちょうどETAのムーブメント供給問題が話題に上り始めたころですので、いくらかは関係しているのではないでしょうか。Cal.1904PS-MCは同工場で2015年に開発されたCal.1847と共にカルティエの所属するリシュモングループ内の様々なメーカーでベースムーブメントとして搭載されています。
このムーブメントの特徴の一つにマジッククリック方式を採用した自動巻き機構があります(画像3・4)。マジッククリック方式はローターが回転すると噛み合っている右側の金色の歯車に伝わり、同軸に取付けられた先端に爪があるレバーが中央の歯車を回転させます。この際レバーの取付け軸が偏心しているため軸の回転をレバーの動きに変換できるようになっています。画像4を見て頂くと爪の先端形状が違うことがわかりますでしょうか。上の爪は押すとき歯車と噛み合い下の爪は引くとき歯車と噛み合い、ローターの回転方向に関わらず中央の歯車は一方向に回転し角穴車へ動きを伝えます。さらに中央の歯車の爪が小さいため小さなローターの動きも伝えることができ、高効率でゼンマイを巻き上げられます。
今回のタンクの点検を進めたところ内部に作業跡はなく油も劣化していましたので、ご購入後にメンテナンスをされていないと判断しオーバーホールを行うこととしました。全てのパーツを分解し点検を終えてみると油の劣化はありましたがパーツに磨耗はなく調整の狂いもありませんでした。洗浄にて劣化した油を洗い流した後で組立て新しい油を注すと良好な精度を記録できました。ケーシング後の実測でも精度は安定していたので外装仕上げの後で店頭に並ぶ予定です。
こちらのカルティエ タンク MCをお客様からお預かりしていた場合はオーバーホール基本料金¥35,000、オーバーホールと一緒に外装仕上げをご希望の場合はセット料金で外装仕上げ¥12,000です。
配送にて対応をご希望の場合はこちらから宅配キットを承っておりますのでお気軽にご依頼ください。
ご使用にならなくとも経年による油の減少はあります。ゼンマイを巻けば使えるからとついつい長期間メンテナンスをせずに使い続ける方も多くいらっしゃいますが、いよいよ動かなくなった時にメンテナンスを行おうとしたらオーバーホールだけでは完調にならず交換パーツが多く必要になったり、当店で入手困難なパーツが判明して高額なメーカー修理しか方法がない場合も珍しくありません。新しい油で潤滑することでパーツの交換を必要最小限にとどめるとともに、軸の摩耗を放置した結果として摩耗することの多い受けなど当店で入手困難なパーツ交換を避けやすくなります。
長期間メンテナンスをしていない心当たりのある方は致命傷になる前にぜひ当店にご相談ください。