トノー オーバーホール 公開日:2021/12/31 最終更新日:2022/01/14 腕時計修理内容 ブランド名 カルティエ モデル名 トノー 型番 WE400131 修理内容 オーバーホール 修理料金 ¥32,000-(税込) ※事例公開時の価格となります。 修理時間 お見積り2週間、ご返答いただきましてから作業5週間 症状タグ 定期メンテナンス油切れ トノーの仕上がり後の画像です ムーブメントと文字盤の間にスペーサー 右上と左下に鍵マーク 左が多ブランドの仕上げなし、右がトノーの仕上げげあり文字盤下 担当者コメントと修理のポイント 気がつけば年の瀬の12月31日。2021年最後の修理事例となりました。 たくさんの大切な修理品をお預けいただき、感謝と共に大変身の引き締まる思いです。 2022年も変わらず宝石広場をよろしくお願いいたします。 さて、今回の修理事例はカルティエのトノーです。渋谷店で買取させていただきました。 カルティエの腕時計コレクションの中で最も古いモデルの一つであるトノー。 トノーとは樽型の意味で、時計の形が酒樽を思わせるふんわりとした膨らみを持つケース形状の総称です。 腕時計が登場した初期から見られるトノー型は、すべての面が優雅な曲線を描いて当時の上流階級の紳士淑女に好まれた上品で歴史あるデザインですね。 デザインこそ古い時計に見えますが今回はヴィンテージ商品ではなく、比較的近年の2000年代に販売されたモデルです。 よく見ると優雅な曲線を描きながらもケースと裏蓋は隙間なくしっかりと気密性を保ち、正確にカットされたダイヤモンドは均一に石留めされ、正確に印字された文字盤など現代の技術を取り入れて実用性を向上させながらもノスタルジックさは残しつつ、見事に近代のモデルとして進化されています。 正面から見ただけではこの優雅なカーブを伝えられませんので、ムーブメントを取り出して横から撮影しました。(画像2) 似たようなトノー型の時計の多くは正面はカーブを描いていても時計を横から見ると真っ平で"いかにも今風の時計"ということがよくあります。これはほとんどのムーブメントは平らな表面の形状をしているので機能やデザイン上の制限がどうしてもできてしまい、そのままでは平らな文字盤しか取付けができないことが理由で文字盤を立体的なカーブを描く構造にすることが非常にコストのかかることを意味しています。 ですが、カルティエのトノーは違います。 ムーメメント自体は平らで同じですが文字盤との間に弧を描いたスペーサーを挟み、文字盤をカーブのある立体的なものを取り付けられるように工夫されています。 もちろんムーブメントと文字盤中心が離れるため、時計としての機能を確保するために歯車の軸を延長するなどきちんと対応されていて、手間とコストを惜しまない作りをしています。 少し工程は戻りますが個人的に面白くて、「この時計は近代的だな」と思ったのがムーブメントをケースに固定する枠です。(画像3) Cartierロゴが全面に彫られた小判型の部分がムーブメント本体で、それを囲うようにMETALとあるのがムーブメントの枠です。 その枠の右上と左下に(-)溝のネジ頭が見えますが、その近くに錠前を「締めたマーク」と「開けたマーク」があるのが見えますでしょうか。 ネジ頭の(-)溝をそれぞれの錠前マークのラインに合わせると、ムーブメントを枠に固定、または解除されて外れる仕組みです。 ほとんどのムーブメント枠は機止め板とネジで締め付けて固定されていますので、私は時計内部の「錠前マーク」を初めて見ました。 機器などこのようなマークを使ってロック、アンロックと表示されているのは日常生活でよく見かけることはありますが機械式時計で、しかも古めかしいトノー型の時計の内部にこのような近代的なマークがあることがとても不思議で興味深い点でした。 小判型のムーブメントは8971MCで、ジャガールクルト製Cal.846がベースです。 受け全体に彫られたCartierロゴ以外はジャガールクルト製とほぼ同じで、リシュモングループでは他のブランドでも使用されています。 こちらは文字盤側の地板までしっかりとペルラージュ仕上げもされて、カルティエの高級ラインであるトノーらしく手抜かりはありません。 参考までに同型ムーブメントの比較をしてみました。左側が別ブランド、右がトノーに搭載されているものです。(画像4) 油切れ以外は特に気になる点はなくオーバーホールで完調になりました。 ランニングテスト後に外装仕上げとロジウムメッキを行い新品仕上げの状態にして店頭に並ぶ予定です。 今回のトノーをお客様からお預かりした場合、オーバーホールの基本料金は32,000円(パーツ代金は別途)、 外装仕上げも追加の場合はオーバーホールとのセット料金で+19,000円~(傷の程度によって増加、ロジウムメッキ含む)となっております。 アンティークのような雰囲気をもちながら現代的な作りで使い勝手の良さを両立したカルティエ トノー。 しっかりと定期整備を行い、何十年と維持して次の世代に引き継いでいただきたい時計です。 お持ちの方で久しくメンテナンスをしていないとご心配される前にぜひとも当店にご依頼ください。 それでは皆様よいお年をお迎えください。 私が担当しました 修理担当した時計 私が担当しました nakashima_tadasumi@ushouseki.xsrv.jp 03-5458-5424 HOUSEKIHIROBA 中島 宝石広場修理部部長。時計修理技師。時計修理業界歴約30年。 時計の状態確認・点検・判定・故障個所の修理などの技術的な対応から部署統括まで幅広く担当。 時計専門紙POWER Watchの『”腕時計”のかかりつけ医』コーナーにも度々登場。 お客様のお時計のお悩み誠心誠意対応させていただきます。 時計に関するお困りごとは宝石広場修理部までご相談くださいませ。 修理担当した時計 2446C | ホイヤー オータヴィア GMT By 中島 2022年3月24日 Ref.600/1 | パテック・フィリップ ポケットウォッチ By 中島 2022年2月3日 B12019 | ブライトリング ナビタイマー コスモノート By 中島 2022年1月21日 WE400131 | カルティエ トノー By 中島 2021年12月31日
担当者コメントと修理のポイント
気がつけば年の瀬の12月31日。2021年最後の修理事例となりました。
たくさんの大切な修理品をお預けいただき、感謝と共に大変身の引き締まる思いです。
2022年も変わらず宝石広場をよろしくお願いいたします。
さて、今回の修理事例はカルティエのトノーです。渋谷店で買取させていただきました。
カルティエの腕時計コレクションの中で最も古いモデルの一つであるトノー。
トノーとは樽型の意味で、時計の形が酒樽を思わせるふんわりとした膨らみを持つケース形状の総称です。
腕時計が登場した初期から見られるトノー型は、すべての面が優雅な曲線を描いて当時の上流階級の紳士淑女に好まれた上品で歴史あるデザインですね。
デザインこそ古い時計に見えますが今回はヴィンテージ商品ではなく、比較的近年の2000年代に販売されたモデルです。
よく見ると優雅な曲線を描きながらもケースと裏蓋は隙間なくしっかりと気密性を保ち、正確にカットされたダイヤモンドは均一に石留めされ、正確に印字された文字盤など現代の技術を取り入れて実用性を向上させながらもノスタルジックさは残しつつ、見事に近代のモデルとして進化されています。
正面から見ただけではこの優雅なカーブを伝えられませんので、ムーブメントを取り出して横から撮影しました。(画像2)
似たようなトノー型の時計の多くは正面はカーブを描いていても時計を横から見ると真っ平で"いかにも今風の時計"ということがよくあります。これはほとんどのムーブメントは平らな表面の形状をしているので機能やデザイン上の制限がどうしてもできてしまい、そのままでは平らな文字盤しか取付けができないことが理由で文字盤を立体的なカーブを描く構造にすることが非常にコストのかかることを意味しています。
ですが、カルティエのトノーは違います。
ムーメメント自体は平らで同じですが文字盤との間に弧を描いたスペーサーを挟み、文字盤をカーブのある立体的なものを取り付けられるように工夫されています。
もちろんムーブメントと文字盤中心が離れるため、時計としての機能を確保するために歯車の軸を延長するなどきちんと対応されていて、手間とコストを惜しまない作りをしています。
少し工程は戻りますが個人的に面白くて、「この時計は近代的だな」と思ったのがムーブメントをケースに固定する枠です。(画像3)
Cartierロゴが全面に彫られた小判型の部分がムーブメント本体で、それを囲うようにMETALとあるのがムーブメントの枠です。
その枠の右上と左下に(-)溝のネジ頭が見えますが、その近くに錠前を「締めたマーク」と「開けたマーク」があるのが見えますでしょうか。
ネジ頭の(-)溝をそれぞれの錠前マークのラインに合わせると、ムーブメントを枠に固定、または解除されて外れる仕組みです。
ほとんどのムーブメント枠は機止め板とネジで締め付けて固定されていますので、私は時計内部の「錠前マーク」を初めて見ました。
機器などこのようなマークを使ってロック、アンロックと表示されているのは日常生活でよく見かけることはありますが機械式時計で、しかも古めかしいトノー型の時計の内部にこのような近代的なマークがあることがとても不思議で興味深い点でした。
小判型のムーブメントは8971MCで、ジャガールクルト製Cal.846がベースです。
受け全体に彫られたCartierロゴ以外はジャガールクルト製とほぼ同じで、リシュモングループでは他のブランドでも使用されています。
こちらは文字盤側の地板までしっかりとペルラージュ仕上げもされて、カルティエの高級ラインであるトノーらしく手抜かりはありません。
参考までに同型ムーブメントの比較をしてみました。左側が別ブランド、右がトノーに搭載されているものです。(画像4)
油切れ以外は特に気になる点はなくオーバーホールで完調になりました。
ランニングテスト後に外装仕上げとロジウムメッキを行い新品仕上げの状態にして店頭に並ぶ予定です。
今回のトノーをお客様からお預かりした場合、オーバーホールの基本料金は32,000円(パーツ代金は別途)、
外装仕上げも追加の場合はオーバーホールとのセット料金で+19,000円~(傷の程度によって増加、ロジウムメッキ含む)となっております。
アンティークのような雰囲気をもちながら現代的な作りで使い勝手の良さを両立したカルティエ トノー。
しっかりと定期整備を行い、何十年と維持して次の世代に引き継いでいただきたい時計です。
お持ちの方で久しくメンテナンスをしていないとご心配される前にぜひとも当店にご依頼ください。
それでは皆様よいお年をお迎えください。